はじめに
遺言書を作成することで、自分の意思を確実に家族や親しい人に伝えることができます。しかし、遺言書にはいくつかの種類があり、中でも多くの方が選択するのが自筆証書遺言と公正証書遺言です。これらはそれぞれメリット・デメリットが異なり、選び方も重要です。本記事では、自筆証書遺言と公正証書遺言の違いについて詳しく解説し、どちらを選ぶべきか検討する際に役立つ情報をお届けします。
遺言書の種類と基本知識
日本の遺言書には3種類の主な形式があり、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3つです。中でも、自筆証書遺言と公正証書遺言が一般的に利用されています。まずは、それぞれの遺言書の概要と特徴を見ていきましょう。
自筆証書遺言とは
自筆証書遺言は、文字通り、遺言者が自分の手で全てを書き記す形式の遺言書です。費用がかからず、いつでも簡単に作成できるため、気軽に作れるのが大きなメリットです。しかし、その一方で法的に有効とされるためには一定の条件を満たさなければならないため、注意が必要です。
メリット
- 費用がかからない:自分で書くため、公証役場での手数料がかからず、費用面での負担が軽減されます。
- 手軽に作成できる:いつでも自分で書き始められるため、気軽に作成が可能です。
デメリット
- 法的な不備のリスク:法律で定められた形式を守らないと無効になってしまいます。署名・日付・押印の記載が必須で、これらが欠けると法的効力がなくなるため注意が必要です。
- 家庭裁判所での検認が必要:相続手続きの際、家庭裁判所での検認手続きを経る必要があり、時間と手間がかかります。
- 紛失・偽造のリスク:自宅で保管する場合、紛失や偽造の可能性があるため、注意が必要です。ただし、2020年から法務局での保管制度が利用でき、保管を依頼することでこのリスクを軽減できます。
公正証書遺言とは
公正証書遺言は、公証役場で公証人の立ち会いのもと作成する遺言書です。法的に認められた手続きに基づいて作成されるため、信頼性が高く、相続時にも円滑に対応できるのが特徴です。公証人の手を借りて作成するため、費用が発生しますが、その分、安全性に優れています。
メリット
- 法的な確実性が高い:公証人が内容を確認しながら作成するため、不備のない遺言書が出来上がり、法的効力も高いです。
- 検認手続きが不要:公正証書遺言の場合、家庭裁判所での検認手続きが不要ですぐに相続手続きを進められます。
- 安全性が高い:公正証書遺言は公証役場に保管されるため、紛失や偽造の心配がありません。また、公証役場には厳格な保管制度があるため、遺言書が見つからないといった事態を防げます。
デメリット
- 費用がかかる:公証役場での作成には手数料が発生します。遺言書の内容や財産の種類によって費用は異なりますが、ある程度の出費は覚悟する必要があります。
- 手続きがやや煩雑:証人2名の立ち会いが必要であり、事前に内容を公証役場と相談する手間もかかります。
筆証書遺言と公正証書遺言の違い
以下は、自筆証書遺言と公正証書遺言の主な違いをまとめた表です。
項目 | 自筆証書遺言 | 公正証書遺言 |
---|---|---|
作成費用 | 無料 | 公証役場手数料が必要 |
作成方法 | 本人がすべて手書き | 公証人の前で口述し作成 |
法的有効性 | 法的要件を満たす必要あり | 公証人の確認により確実 |
検認手続きの有無 | 必要 | 不要 |
紛失・偽造リスク | あり(法務局での保管も可能) | 公証役場で保管され安全 |
作成に必要な証人 | 不要 | 証人2名が必要 |
どちらを選ぶべきか?
遺言書をどちらの形式で作成するかは、個々の状況や希望に応じて異なります。以下に、それぞれの遺言書が適しているケースについてご紹介します。
自筆証書遺言が適しているケース
- 費用を抑えて手軽に作成したい場合
- 内容がシンプルで、手書きで書きやすい財産分割が可能な場合
- 遺言書の内容を自分で随時更新したい場合(法務局での保管制度を利用することで安全性も確保できます)
公正証書遺言が適しているケース
- 法的に確実で、不備のない遺言書を作成したい場合
- 相続人同士のトラブルが予想される場合(確実な法的効力が得られるため、遺産分割を巡るトラブルを防げます)
- 財産が複雑で、専門家の確認を受けて内容を確定させたい場合
- 高齢や病気などで文字を書くのが難しい場合(公証役場に出向くことが難しい場合は、公証人の訪問を依頼することも可能です)
遺言書作成における注意点
- 法的要件を守る
- 遺言書の形式を誤ると、せっかくの意思表示が法的効力を持たない場合があります。特に自筆証書遺言の場合、日付・署名・押印を必ず忘れずに記載しましょう。
- 専門家のサポートを受ける
- 遺言書の内容が複雑である場合や、相続において争いが予想される場合には、行政書士や弁護士などの専門家のアドバイスを受けることが望ましいです。公正証書遺言の場合は、専門家に相談しながら内容を調整できます。
- 定期的に見直しを行う
- 結婚や子供の誕生、財産の変動など、ライフイベントがあれば内容を見直しましょう。特に自筆証書遺言の場合、古い内容がそのまま残っていると、後から相続人に混乱を生む可能性があります。
まとめ
遺言書の準備は、家族や親しい人への配慮として非常に重要です。自筆証書遺言は費用がかからず手軽に作成できる一方で、法的な不備や保管リスクがあるため、しっかりと法的要件を満たす必要があります。一方、公正証書遺言は費用はかかりますが、法的に確実で検認手続きも不要のため、安全性に優れています。
どちらの形式が適しているかは、遺言内容やご自身の状況により異なりますので、ぜひ専門家と相談しながら検討してください。