はじめに
夫婦間での話し合いにより合意した内容が、後になって覆されたり、離婚協議後に合意内容が変更されたりするケースは珍しくありません。特に、養育費や財産分与、面会交流など、生活に直結する重要な取り決めについては、当初の合意が守られないことでトラブルに発展することもあります。本記事では、こうした場合にどのような法的対処法があるのか、また合意内容を変更したい場合の正しい手続きについて解説します。
夫婦間の合意書・誓約書の法的効力
夫婦間で何らかの問題が生じた際、話し合いの結果を「合意書」や「誓約書」として書面化することがあります。これらの書面は、後々のトラブル防止や証拠資料として有効ですが、婚姻中に作成された夫婦間の契約には民法754条(夫婦間の契約の取消権)が適用され、婚姻が実質的に継続している限り、一方的に取り消すことができるとされてきました。
ただし、夫婦関係が実質的に破綻している場合や、離婚協議の過程で取り決めた内容については、この取消権は制限されるという判例もあります(最高裁判所判例 昭和42年2月2日等)。つまり、離婚協議書や別居合意書など、夫婦関係が破綻に瀕している状況で作成された合意書は、原則として一方的に取り消すことはできません。
離婚協議書の内容が変更された場合の対処法
1. 離婚協議書の変更は可能か
離婚協議書は、元夫婦双方の合意があれば、後から内容を変更することが可能です。変更を希望する場合は、再度話し合いを行い、変更内容について新たに協議書を作成し、双方が署名・押印することで法的に有効な合意となります。
- 変更回数に制限はなく、合意があれば何度でも変更できます。
- 変更内容が相手方に不利になる場合、合意が得られないこともあるため、慎重な話し合いが必要です。
2. 合意が得られない場合の対応
合意が得られない場合、特に養育費や面会交流など子どもに関する事項については、家庭裁判所の調停や審判を利用して変更を求めることができます。裁判所は「事情の変更」が認められる場合に限り、合意内容を変更する判断を下します。
3. 公正証書の場合の注意点
離婚協議書を公正証書にしている場合、強制執行認諾文言が入っていれば、約束が守られないときに強制執行が可能です。内容を変更する際は、新たに公正証書を作成し直すか、調停手続きで変更を証明できる書面を残しておくことが重要です。
夫婦間の合意内容が覆された場合の具体的対応策
- まずは話し合い・交渉を行う
相手方が合意内容に違反した場合、まずは冷静に話し合い、合意内容の履行を求めましょう。交渉が難航する場合は、内容証明郵便などで正式に請求する方法も有効です。 - 証拠の確保
合意書や誓約書、メール・LINEなどのやり取り、支払い記録など、合意違反を立証できる証拠を確保しておくことが大切です。 - 弁護士や専門家への相談
話し合いで解決しない場合は、弁護士や行政書士などの専門家に相談し、法的手続きを検討しましょう。 - 調停・審判・訴訟の利用
合意内容の履行や変更について合意できない場合は、家庭裁判所の調停や審判、場合によっては訴訟を利用することになります。
事例紹介
たとえば、Aさん(女性)がBさん(男性)と離婚協議を行い、養育費や面会交流について協議書を作成したとします。数年後、Bさんの収入が大幅に減少し、養育費の減額を求めてきました。Aさんは当初拒否しましたが、家庭裁判所の調停で「事情の変更」が認められ、養育費が減額される新たな合意が成立しました。
このように、当事者間の合意が得られない場合でも、事情の変化があれば調停や審判を通じて内容の変更が認められることがあります。
まとめ
- 夫婦間の合意内容は、婚姻関係が破綻している場合や離婚協議書として作成された場合、原則として一方的に取り消すことはできません。
- 離婚協議書の内容は、双方の合意があれば変更可能です。合意が得られない場合は、調停や審判での解決が図られます。
- 公正証書の場合は、強制執行や変更手続きに特有の注意点があります。
- 合意違反があった場合は、話し合い・証拠確保が重要です。