はじめに
離婚協議中に突然、相手が失踪・行方不明になってしまった場合、残された側は大きな不安と戸惑いを感じることでしょう。「このまま離婚はできるのか」「どのような手続きが必要なのか」といった疑問も多く寄せられます。この記事では、配偶者が離婚協議中に失踪した場合の対応策や具体的な手続き方法について、法的根拠や実務上のポイントを踏まえて詳しく解説します。
離婚協議中に相手が失踪した場合の基本的な考え方
離婚手続きには主に「協議離婚」「調停離婚」「裁判離婚」の3つの方法があります。しかし、相手が失踪して連絡が取れない場合、協議離婚や調停離婚は成立しません。なぜなら、これらは双方の話し合いや合意が前提となるためです。
そのため、相手が行方不明の場合には、例外的に家庭裁判所に調停を申し立てることなく、直接「裁判離婚(離婚訴訟)」を起こすことが認められています。
裁判離婚の進め方と「公示送達」について
1. 離婚訴訟の提起
まず、相手の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に離婚訴訟を提起します。この際、訴状には相手の住所や居所を記載しますが、行方不明の場合は調査報告書などを添付し、所在が不明であることを証明する必要があります。
2. 公示送達の利用
相手の居所が分からない場合、「公示送達」という手続きを利用します。これは、裁判所の掲示板に訴状を掲示することで、相手に訴状が届いたものとみなす制度です。公示送達の申立てには、相手の所在を調査した記録や証拠が求められます。
離婚が認められる主な法的理由(民法770条)
相手が失踪している場合、離婚が認められるには民法で定められた「離婚原因」に該当する必要があります。主な理由は次の3つです。
離婚原因 | 内容 | 必要な証拠・条件 |
---|---|---|
3年以上の生死不明(民法770条1項3号) | 配偶者が3年以上、生死不明の状態にある | 警察への捜索願、知人や職場への調査記録など |
悪意の遺棄(民法770条1項2号) | 正当な理由なく同居・協力・扶助義務を果たさない | 失踪の経緯、期間、生活費の送金有無など |
婚姻を継続し難い重大な事由(民法770条1項5号) | 婚姻関係が破綻し、回復の見込みがない | 別居期間、これまでの夫婦関係の経緯など |
「3年以上の生死不明」に該当しない場合でも、「悪意の遺棄」や「婚姻を継続し難い重大な事由」として離婚が認められることがあります。実際には、1年程度の行方不明でも離婚が認められた裁判例も存在します。
失踪宣告との違い
配偶者が7年以上生死不明の場合には、「失踪宣告」(民法30条)を家庭裁判所に申し立てることで、法律上死亡したものとみなすことができます。この場合、離婚手続きを経ずに婚姻関係が終了し、財産の相続も可能となります。
ただし、失踪宣告は「死亡」とみなす制度であり、離婚とは扱いが異なります。再婚や相続など目的によっては、どちらの手続きを選択するか慎重に検討が必要です。
実際の手続きの流れ
- 相手の所在調査(警察への捜索願、知人・勤務先への連絡等)
- 家庭裁判所に離婚訴訟を提起
- 公示送達の申立て・実施
- 裁判で離婚原因を主張・証拠提出
- 判決確定後、市区町村役場に離婚届を提出(配偶者の署名押印欄は空欄で可)
慰謝料や財産分与について
相手が失踪していても、離婚原因によっては慰謝料や財産分与を請求できる場合があります。ただし、相手の所在や財産の把握が難しいため、専門家や探偵の協力が必要になることもあります。
注意点と対応策
- 離婚届を勝手に提出することは絶対に避けてください。有印私文書偽造罪などの刑事責任を問われる可能性があります。
- 離婚原因を証明するための証拠をしっかり集めておきましょう(捜索願、陳述書、生活費の送金記録等)。
- 相手の財産調査も可能な限り行い、財産分与や慰謝料請求に備えましょう。
- 手続きが複雑なため、弁護士や行政書士など専門家への相談を強くおすすめします。
まとめ
離婚協議中に相手が失踪した場合、協議離婚や調停離婚はできませんが、裁判離婚によって離婚が可能です。「3年以上の生死不明」「悪意の遺棄」「婚姻を継続し難い重大な事由」など、民法で定められた離婚原因に該当するかどうかがポイントとなります。手続きには「公示送達」など特殊な方法が必要となるため、証拠の収集や書類作成、財産調査など、慎重かつ計画的に進めることが重要です。
不明な点や不安がある場合は、必ず専門家に相談し、適切なアドバイスを受けてください。