はじめに
配偶者等(日本人の配偶者、永住者の配偶者等)の在留資格から「永住者」への変更は、安定した婚姻生活や生活基盤が求められる手続きです。しかし、夫婦間でトラブルや別居がある場合、永住許可が不許可となる可能性や審査への影響を心配される方も少なくありません。本記事では、出入国在留管理庁(入管)の公的情報・最新ガイドラインをもとに、「配偶者等ビザ」から「永住者」への申請時に夫婦トラブルがある場合の審査基準や注意点を、行政書士の視点でわかりやすく解説します。
配偶者等から永住者へ変更するための一般要件
永住許可申請にあたり必要となる一般的な要件は、主に以下の通りです。
- 素行善良要件(犯罪歴や社会的な問題行動がないこと)
- 独立生計要件(安定した生活基盤、十分な収入や貯蓄等)
- 現在有している在留資格で最長の在留期間を保有
- 実態を伴った婚姻生活が継続していること(3年以上が目安)
夫婦トラブルが審査に与える影響
永住許可審査において、婚姻の実態が重視される点が最大のポイントです。形式上だけではなく、実際に夫婦が協同して生活している事実が証明できない場合、永住への変更は厳しくなります。
主な影響点は下記の通りです。
- 別居している場合:特別な事情(DVや遠距離勤務地務など)がなく、単なる不仲による別居であれば、「実態ある婚姻生活」と認められず、不許可となる可能性が高くなります。
- 週末婚・長期不在:やむを得ない理由があれば、定期的交流や生計の共同性を示す資料があれば柔軟に判断される場合もあります。
- 夫婦喧嘩や不仲:一時的なトラブルは即不許可につながる要因にはなりませんが、長期間の別居や暴力(DV)、生活協力の欠如などは厳しく審査されます。
「不許可」となる典型例と正当な理由の提示
出入国在留管理庁の公式事例や審査基準によれば、以下のようなケースは永住申請が「不許可」となりやすいです。
- 虚偽の婚姻(いわゆる偽装結婚)の疑い
- 長期間同居していない・生計を共にしていない
- 重大な夫婦間トラブル・暴力(DV)
- 提出書類に不整合がある
ただし、病気や職務上の遠隔地勤務、DV被害等・正当な理由が具体的かつ裏付け資料とともに示された場合は、審査上十分に考慮されます。
在留資格取消制度との関係
配偶者等の資格で在留している方が6か月以上「配偶者としての活動」を行っていない場合、正当な理由なく活動実績が無ければ在留資格取消しの対象となります(入管法22条の4第1項7号)。永住申請の前にこの事実が判明すると、在留資格自体の維持も難しくなります。
事例
Aさん(30代男性)は日本人女性と結婚し、5年間「日本人の配偶者」として在留していました。しかし、ここ1年間、夫婦間トラブルにより別居が続きました。Aさんは単身赴任を理由に別居を続けていましたが、生活費の送金記録、定期的な交流記録、家族間の連絡履歴などを申請時に提出。さらに、今後の同居再開予定とその根拠資料を提示したことで、審査官はやむを得ない事情があると判断し、永住許可が下りた事例もあります。逆に、DVや顕著な不協など、改善の見込めない関係では不許可となった例もあります。
審査官の裁量とガイドライン
永住許可の審査は法務大臣(または地方入管局長)の裁量により、個々の事情を総合的に考慮して判断されます。審査基準は明文化されていますが、提出資料や説明、実体の有無によって左右されるため、トラブルがある場合は具体的事情や証拠資料をどれだけ丁寧に示せるかが重要です。
まとめ
配偶者等から永住者への在留資格変更にあたり、夫婦間トラブルがある場合は「実体ある婚姻生活」の有無が審査結果に大きく影響します。単なる不仲・長期別居では不許可となるリスクが高いですが、やむを得ない理由がある場合はその理由と裏付け資料の提出で柔軟に判断されます。公式ガイドラインや入管庁の公的情報をもとに、事前に要件と審査基準を確認し、できる限り詳細な説明・資料準備を心がけることが合格への近道です。


