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家族信託で兄弟間の不公平を防ぐには?相続トラブルを避ける設計のポイント

家族信託のアイキャッチ画像

親の自宅や預金をめぐって、相続時に兄弟姉妹の間で「不公平だ」「約束と違う」といったトラブルになるケースは少なくありません。こうした争いを防ぐ対策として「家族信託(民事信託)」が注目されていますが、設計を誤るとかえって不満や紛争の火種になることもあります。
この記事では、家族信託の基本を押さえつつ、兄弟間の不公平感をできるだけ減らし、トラブルを避けるための設計のコツを、行政書士の実務を意識しながら分かりやすく解説します。

家族信託は、財産の所有者(委託者)が、信頼できる家族(受託者)に不動産や預金などの管理・処分を任せ、その利益を受ける人(受益者)を定める仕組みです。信託法では、特定の目的に従って財産を管理・処分させる制度として位置づけられており、相続・老後対策に広く利用されています。
信託財産は、原則として遺産分割協議の対象外となり、信託契約で定めたとおりに承継されるため、「誰にどの財産をどの順番で承継させるか」を生前に細かく決めておくことができます。これにより、相続開始後の兄弟姉妹の話し合いによる争いを軽減できる反面、設計が一方的・不透明だと「不公平だ」と感じさせてしまうおそれがあります。

兄弟間で不満が生じやすいのは、例えば次のようなケースです。

  • 長男だけが受託者・受益者として自宅と収益不動産を信託され、次男・三男には将来の受益や換価分配のルールが決められていない。
  • 特定の子にだけ、信託財産から生活費・学費・事業資金などの給付を認め、他の子には全く給付がない一方で、最終的な遺産分割についても調整規定がない。

これらのパターンでは、信託契約上は適法であっても、税務上は通常の相続・贈与と同様に評価・課税されることが多く、「税負担だけ重く、不公平感も残る」という結果につながりかねません。
また、成年後見制度では、後見人の行為は原則として本人の財産の維持・保全が目的であり、相続人間の利害調整を図ることはできませんが、家族信託は逆に「誰にどれだけ承継させるか」を自由に設計できるため、その分だけ慎重な配分設計と説明が求められます。

不公平感を防ぐための主なポイントは次のとおりです。

  1. 受託者と受益者の役割を分けて考える
  • 受託者は「管理・処分の権限をもつ人」、受益者は「経済的利益を受ける人」であることを、信託法やガイドラインに沿って明確に整理します。
  • 特定の子だけを「受託者兼唯一の受益者」とすると、他の兄弟は「全部持っていかれた」という印象を持ちやすいため、場合によっては複数の受益者を設定し、利益配分を割合で定めることを検討します。
  1. 第二受益者・第三受益者まで含めた「承継の道筋」の明確化
  • 家族信託では、第一受益者が死亡した後の第二受益者・第三受益者をあらかじめ決めておくことができ、いわゆる「二次相続」以降まで承継の流れを設計できます。
  • 兄弟全員を将来の受益者として位置付け、順番や持分割合、信託終了時の帰属権利者を具体的に定めておくことで、「最終的には公平に分ける」という安心感を持ってもらいやすくなります。
  1. 信託財産以外も含めた「全体の相続バランス」を確認する
  • 国税庁の通達等では、信託受益権や信託財産も通常の財産と同様に相続税・贈与税の評価対象となり、相続税申告の際には「信託受益権の評価明細書」を提出することが求められる場合があります。
  • そのため、家族信託で自宅を長男に集中させる場合には、預金や生命保険を他の兄弟に手厚く残すなど、信託財産以外も含めた全体のバランスを、税負担も踏まえて検討することが重要です。

具体的なトラブル防止のために、次のような条項・運用を検討します。

  • 情報共有・説明のルールを定める
    • 受託者に対し、信託財産の運用状況や収支を、年1回などの頻度で受益者や将来の受益予定者に報告する義務を信託契約で定めることで、「知らないうちに勝手にやられている」という不信感を抑えることができます。
  • 不動産の使用・居住ルールを明文化する
    • 民法改正により、配偶者の居住権保護が強化されたように、居住に関する権利関係は紛争になりやすい領域です。
    • 親が亡くなった後、どの兄弟がいつまで自宅に住めるのか、賃貸に出す場合の方針、売却する場合の決定方法などを、信託契約内であらかじめ決めておくと安心です。
  • 公平な換価・分配の方法を決めておく
    • 信託終了時に不動産を売却して代金を兄弟で分けるのか、一人が引き継いで他の兄弟に代償金を支払うのかなど、出口(信託終了時)のイメージを、相続税評価や譲渡税なども意識しながら設計しておく必要があります。

以下は、典型的な兄弟間調整のイメージを示すための創作例です(特定の事務所の実績ではありません)。

  • 70代の父Aさんには、長女Bさん・長男Cさん・次女Dさんの3人の子がいます。Aさん名義の自宅(評価額3,000万円)と預金1,000万円が主な財産です。
  • Aさんは判断能力がしっかりしているうちに、自宅を信託財産とする家族信託契約を締結し、受託者を長女Bさん、第一受益者をAさん、第二受益者を長女Bさん・長男Cさん・次女Dさん(各3分の1)としました。

このとき、次のような条項を設けることで不公平感を抑えやすくなります。

  • Aさんの生前は、自宅をAさんと長女Bさんが無償で使用できること、その固定資産税や維持費の負担方法。
  • Aさん死亡後は、自宅を一定期間賃貸に出し、賃料収入を3人の第二受益者に等分すること。
  • 子ども全員が売却に同意した場合は自宅を売却し、売却代金から必要経費・税金を差し引いた残額を3分の1ずつ分配して信託を終了すること。

このように、使用権・収益分配・最終的な売却のルールを明文化しておくことで、「誰かだけが得をしている」という印象を減らすことができます。

  • 税金面の効果を過大評価しない
    • 家族信託自体に直接的な相続税・贈与税の節税効果はなく、むしろ設計を誤ると課税関係が複雑になり、税負担が増えるおそれがあるとされています。
    • 国税庁の通達では、信託受益権の評価や信託財産にかかる債務控除など、具体的な税務取扱いが定められているため、税理士とも連携しながら検討することが重要です。
  • 成年後見制度や遺言との役割分担
    • 内閣府や法務省の資料では、民事信託(家族信託)が「判断能力低下への備え」と「承継設計」の両方に活用できる一方、成年後見制度は主として本人保護を目的としていることが示されています。
    • 家族信託だけで全てを解決しようとせず、遺言や任意後見契約、保険など他の制度と組み合わせることで、よりバランスの良い相続設計が可能になります。

家族信託は、信頼できる家族に財産の管理・処分を任せつつ、将来の承継の道筋を細かく決められる便利な制度ですが、その自由度の高さゆえに兄弟間の不公平感を生みやすい側面もあります。
受託者と受益者の役割を分けて考え、第二・第三受益者までの承継ルートや信託終了時の分配方法を明確にし、情報共有や居住・換価のルールを丁寧に設計することで、トラブルの芽をかなり減らすことができます。
具体的な内容は、家族構成や財産内容、税務状況によって最適解が大きく異なりますので、法務省・国税庁などの公的情報を踏まえつつ、家族信託に詳しい専門家に個別相談しながら検討していただくことをおすすめします。

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