はじめに
「公正証書遺言を作りたいが、子どもや配偶者にはまだ知らせたくない」「家族に内緒で公証役場へ相談できるのだろうか」と悩まれる方は少なくありません。
結論からいえば、公正証書遺言は、遺言を作る本人が家族の同席・同意を得ることなく、単独で準備や相談を進められます。ただし、作成当日には法律上、証人2名の立会いが必要です。そのため、「誰にも知られずに一人だけで完成させる」ことはできませんが、子どもや配偶者に内容を知らせずに作成することは可能です。公正証書遺言では、相続人や受遺者などの利害関係者は証人になれないため、家族以外の適切な証人を手配することが重要になります。
公正証書遺言は家族に内緒で作れる
公正証書遺言は、遺言者が公証人に自らの意思を伝え、公証人が内容を整えた上で作成する遺言です。相談、資料提出、遺言案の確認、公証役場での作成予約などは、原則として遺言者本人が行えます。子どもや配偶者に連絡する必要はなく、同席や署名も求められません。
たとえば、配偶者には生活の不安を与えたくない、子ども同士の関係が悪化することを避けたい、特定の財産を誰に承継させるかを生前は伝えたくない、といった事情がある場合でも、遺言者本人の意思で準備を進められます。
遺言公正証書の原本は公証役場で保管されます。遺言者が存命中に、相続人が公正証書遺言の有無や内容を自由に調べることはできません。遺言検索の申出ができるのは、遺言者が生前であれば原則として本人に限られ、相続開始後に相続人などの利害関係人が必要書類をそろえて行う仕組みです。
ただし、遺言書を作った事実や内容を家族に完全に知られないようにするには、連絡先、郵送物、保管場所、証人の選び方にも注意が必要です。
一人で進める場合でも証人2名は必要
「一人で作る」といっても、公正証書遺言の作成当日は遺言者だけで完結するわけではありません。民法上、公正証書遺言には証人2名以上の立会いが必要です。公証人の前で遺言者が内容を確認し、遺言者と証人が内容の正確性を承認する手続が行われます。
証人は、単なる立会人ではありません。遺言者が自分の意思で遺言をしたこと、定められた方式で手続が行われたことを確認する役割を担います。そのため、遺言の内容を全く見せずに証人だけを同席させることは通常できません。
また、次の方は証人になれません。
- 未成年者
- 推定相続人
- 遺言によって財産を受け取る受遺者
- 推定相続人または受遺者の配偶者・直系血族
- 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記、雇人
たとえば、「長男に自宅を相続させる」という遺言では、長男本人はもちろん、長男の配偶者や子も証人になれません。配偶者や他の子どもについても、相続人である以上、原則として証人にはなれません。
秘密にしたいときの証人選び
家族に遺言内容を秘密にしたい場合、知人に証人を頼むことへ抵抗を感じる方もいるでしょう。この場合は、公証役場に証人の紹介を相談する方法があります。適当な証人が見当たらない場合、公証役場が証人を紹介できる取扱いがあります。
また、行政書士などの専門家に遺言作成の相談や文案作成の支援を依頼し、証人の手配について相談する方法もあります。ただし、誰を証人にするかは、遺言の内容、相続関係、財産を受け取る人との関係を確認した上で慎重に決めなければなりません。
証人には遺言内容が伝わるため、秘密性を重視する場合は、次の点を事前に検討しておくとよいでしょう。
- 相続人や受遺者と利害関係のない人を選ぶ
- 家族や親族と密接な関係がない人を候補にする
- 証人の守秘について事前に明確に確認する
- 証人紹介の可否や費用を早めに公証役場へ確認する
- 遺言の内容を必要以上に家族へ話さないよう、連絡手段や書類の送付先にも配慮する
公証人と公証役場の書記には職務上知り得た秘密を守る義務があり、遺言公正証書の原本も厳重に保管されます。証人についても、遺言作成の趣旨から、作成の事実や内容を他人に漏らさないことが求められます。
作成までの進め方と必要書類
家族に秘密で公正証書遺言を作る場合でも、基本的な流れは通常と同じです。最初の相談では、財産の内容、誰に何を残したいか、遺言執行者を指定するかなどを整理します。その後、公証人に必要資料を提出し、遺言案を確認して作成日を決めます。
主な必要書類は、次のとおりです。
- 遺言者本人の印鑑登録証明書と実印、または運転免許証・マイナンバーカードなどの本人確認資料
- 遺言者と相続人との続柄が分かる戸籍謄本等
- 不動産の登記事項証明書、固定資産評価証明書または固定資産税納税通知書
- 預貯金の通帳コピーなど、金融機関・支店・口座を特定できる資料
- 相続人以外に遺贈する場合は、受遺者の住所が分かる資料
- 証人を自分で手配する場合は、証人の氏名・住所・生年月日が分かる資料
- 相続人以外の人を遺言執行者に指定する場合は、その人を特定する資料
必要書類は遺言の内容や財産の種類によって変わります。特に、不動産の表記や預貯金口座の特定が不十分だと、相続開始後の名義変更・払戻し手続に支障が出るおそれがあります。作成前の段階で、財産資料を整理しておくことが大切です。
まとめ
公正証書遺言は、子どもや配偶者の同意・同席なしに、遺言者本人が相談から準備まで進められます。したがって、家族に内容を知らせずに作成することは可能です。
もっとも、作成当日は証人2名が必要であり、相続人や受遺者、その配偶者・直系血族などは証人になれません。秘密性を重視する場合は、公証役場による証人紹介を相談する、または利害関係のない適切な証人を慎重に選ぶことが重要です。
遺言の内容は、家族構成、財産の種類、遺留分、将来の相続手続への影響を踏まえて設計する必要があります。「誰にも知られずに作りたい」という希望と、「遺言を確実に実現したい」という目的の両方をかなえるため、早い段階から専門家や公証役場へ相談し、準備を進めると安心です。


