はじめに
自筆証書遺言は、遺言者自身が手書きで作成する遺言書の形式で、手軽に作成できる反面、記載内容の不備が原因で無効とされるリスクもあります。特に遺産の全体像を正確に記録する「財産目録」の作成は重要で、不備があると後の相続トラブルの原因になりかねません。
本記事では、自筆証書遺言における財産目録の作成方法と注意点について詳しく解説します。正確で適切な財産目録を作成することで、遺言の内容をしっかりと反映し、円滑な相続手続きに役立てることができます。
自筆証書遺言とは
自筆証書遺言とは、遺言者が自ら全文を手書きで作成する遺言書のことです。この形式は、遺言者自身が内容を自由に記述できるため、費用をかけずに作成可能な点が利点とされています。しかし、形式上の要件が厳しく、要件を満たさない場合には無効となってしまう恐れもあります。2019年の民法改正により、財産目録に限っては手書きでなくても良いとされていますが、その他の部分は手書きが必須です。
財産目録の重要性
財産目録は、遺産の内訳を一覧で示したもので、遺産相続の基準となる重要な情報です。正確な財産目録を作成することで、相続人が遺産分割をスムーズに進めやすくなり、相続争いを防ぐためにも重要です。
財産目録の作成方法
自筆証書遺言に添付する財産目録は、遺言者が所有するすべての財産を漏れなく記載する必要があります。ここでは財産目録に含まれるべき主な項目を解説します。
1. 不動産
不動産は、相続財産の中でも特に価値が大きく、また登記内容や権利関係が明確に記載されるべきです。以下の情報を正確に記載しましょう。
- 所在地:登記簿に記載された住所をそのまま書きます。
- 地目と地積:登記簿の内容を参照し、土地や建物の種類と面積を明記します。
- 登記番号:物件ごとに割り当てられる固有の番号を記載します。
不動産が複数ある場合は、物件ごとに詳細を記載しておくと良いでしょう。登記内容と異なる記載があると、相続登記においてトラブルが発生する可能性があるため、最新の登記簿謄本を確認して記入することが重要です。
2. 預貯金
金融機関に預けている資産についても詳細な記載が求められます。特に注意すべきは、金融機関名や口座番号の誤記がないようにすることです。
- 銀行名および支店名
- 口座種類(普通預金、定期預金など)
- 口座番号および残高
金融機関が複数ある場合、全ての口座を一覧にして明示しておくと相続人の混乱を避けることができます。預貯金については、財産目録に記載する残高が変動する可能性があるため、最新の通帳記入や残高証明書を参考にすることが望ましいでしょう。
3. 株式・有価証券
株式や投資信託などの金融資産も財産目録に含めます。以下のような情報を明示しておきましょう。
- 保有している証券の銘柄と保有株数
- 証券会社名および証券番号
- 最新の株価(相続時の評価に影響するため、日付も記載しておくと良い)
株式や有価証券は市場価値が変動するため、相続手続きの時点での評価額に注意が必要です。証券会社からの報告書や口座明細を基に記載しましょう。
4. 自動車
車やバイクなどの動産も財産目録に含まれます。具体的には以下の内容を記載しましょう。
- 車種・メーカー
- 車両番号と車台番号
- 登録証明書のコピー
車両については、評価額を算出する際には減価償却や市場価値の変動が考慮されるため、車の買取査定や中古市場の価格を基準にしても良いでしょう。
5. その他の財産(生命保険、貸付金など)
生命保険の受取人が遺言で指定されている場合や、貸付金が存在する場合は、以下の情報も記載しておくと相続手続きが円滑になります。
- 生命保険の保険会社名および契約番号
- 受取金額
- 貸付金の貸付先および金額
特に貸付金については、貸付契約書がある場合はそれを基に記載し、借入金が返済されているかどうかも確認しておくと良いでしょう。
財産目録を作成する際の注意点
財産目録の作成には細心の注意が必要で、特に以下の点に注意しましょう。
1. 財産目録はワープロやパソコンでの作成が可能
民法改正により、財産目録に限ってはワープロやパソコンでの作成が許可されているため、手書きではなくても問題ありません。ただし、目録が複数ページにわたる場合は、各ページに署名・押印を行う必要があります。この署名・押印は遺言の有効性を保つために重要な手続きです。
2. 定期的な更新が必要
財産目録は一度作成したら完了ではなく、財産の状況が変わるたびに更新することが必要です。新たに不動産を購入したり、預貯金や株式が増減したりする場合には、その都度目録を最新の情報に更新しておくことで、相続人の手続きを簡略化できます。
3. 借入金や負債の記載
財産目録には資産のみならず、負債も記載することが重要です。相続においては資産と負債の総額が関係するため、借入金や未払いのローンなどの負債情報を明示しておくことで、相続人が相続放棄の判断を含めて的確な選択ができるようになります。
まとめ
自筆証書遺言の財産目録は、相続手続きをスムーズに進めるために欠かせない重要な書類です。不動産や預貯金、株式、自動車といった各財産の詳細を正確に記載し、相続人が混乱せずに遺産を受け取れるよう配慮することが求められます。特に遺言書が無効にならないためにも、財産目録の記載内容を最新の状態に保つことや、必要な署名・押印を忘れずに行うことが大切です。
遺言書の作成や財産目録の更新は、遺言者の意向を正確に反映させ、相続人間のトラブルを回避するためにも非常に重要な手続きです。財産状況が変化した場合にはその都度見直しを行い、専門家のサポートを得て正確な財産目録を作成することが、円満な相続手続きを実現する第一歩となるでしょう。