はじめに
離婚や不倫などによる慰謝料請求で、相手が合意や判決に従わず慰謝料を支払わないケースは少なくありません。このような場合、「強制執行」という法的手続きを利用して、相手の財産から慰謝料を回収することが可能です。本記事では、慰謝料未払い時の強制執行手続きについて、具体的な流れや注意点をわかりやすく解説します。
強制執行とは?
強制執行とは、裁判で勝訴判決や和解調書などの「債務名義」を取得したにもかかわらず、相手が慰謝料を支払わない場合に、裁判所を通じて相手の財産を差し押さえ、強制的に回収する手続きです。
慰謝料未払いで強制執行ができる条件
強制執行を行うためには、以下の条件を満たす必要があります。
- 債務名義を取得していること
債務名義とは、確定判決、仮執行宣言付判決、和解調書、調停調書、執行証書など、法的に強制執行が認められる公文書です。 - 相手方に差し押さえ可能な財産があること
不動産、預貯金、給与、動産、自動車などが対象となります。 - 相手方の住所や財産を把握していること
強制執行の申立てには、相手の財産の種類や所在を裁判所に伝える必要があります。
強制執行の手続きの流れ
1. 債務名義の取得
まずは、慰謝料の支払いについて合意書や公正証書、もしくは裁判で判決や和解調書を取得します。これがない場合は、調停や訴訟を起こして債務名義を取得する必要があります。
2. 相手の財産調査
相手の住所や財産(預貯金、給与、不動産など)を調査します。住民票や戸籍附票の取得、弁護士への依頼、裁判所の財産開示手続きなどを利用します。
3. 執行文の付与・送達証明の取得
債務名義に執行文を付与し、送達証明を取得します。これは裁判所や公証役場で手続きが可能です。
4. 強制執行の申立て
裁判所に対し、差押命令や強制執行の申立てを行います。申立てには、債務名義、執行文、送達証明、差し押さえ対象財産の情報などが必要です。
5. 差押命令の発令
裁判所が申立て内容を確認し、問題がなければ差押命令を発令します。命令は、相手の勤務先や金融機関などの第三債務者にも送付されます。
6. 実際の回収
差押命令に基づき、預貯金や給与、不動産などから慰謝料を回収します。給与の場合、原則として手取り額の4分の1までが差し押さえ可能です(高額の場合は例外あり)。
差し押さえ可能な財産の種類
- 不動産(土地・建物)
- 預貯金
- 給与(手取り額の4分の1が原則)
- 動産(自動車、貴金属等)
- その他の債権(売掛金など)
強制執行の注意点
- 差押禁止財産がある
生活保護費や年金、一定範囲の給与など、法律で差し押さえが禁止されている財産もあります。 - 財産の把握が難しい場合も
相手の財産情報が不明な場合は、弁護士への依頼や裁判所の開示手続きが有効です。 - 費用と時間がかかる
強制執行には手数料や弁護士費用がかかり、手続きが完了するまで一定の時間も必要です。
事例紹介
例えば、Aさんは離婚調停で元配偶者Bさんから慰謝料300万円を受け取る合意をしましたが、Bさんが支払いを拒否。Aさんは調停調書をもとに、Bさんの勤務先の給与を差し押さえる強制執行を申し立て、毎月の給与から慰謝料を回収することができました。
まとめ
慰謝料が未払いの場合、債務名義があれば強制執行によって相手の財産から回収することが可能です。強制執行には、債務名義の取得、財産調査、裁判所への申立てなど、いくつかのステップが必要となります。相手の財産状況や手続きの難しさによっては、弁護士や専門家への相談も検討しましょう。