はじめに
成年後見制度は、認知症や知的障害、精神障害などにより判断能力が不十分な方を法律的に保護し、支援する仕組みです。この制度の中心的な役割を担うのが成年後見人です。本記事では、成年後見人の具体的な役割と責任について、財産管理から日常生活支援まで詳しく解説します。
成年後見人の主な役割
成年後見人の役割は大きく分けて「財産管理」と「身上保護」の2つに分類されます。
1. 財産管理
成年後見人は、被後見人の財産を適切に管理し、必要に応じて処分する権限を持ちます。具体的な業務には以下のようなものがあります:
- 預貯金通帳、印鑑の管理
- 年金などの収入の管理
- 税金、公共料金、医療費などの支払い
- 不動産の管理や処分(家庭裁判所の許可が必要な場合あり)
- 保険金の請求や受領
2. 身上保護
身上保護とは、被後見人の生活や健康に配慮し、安心した生活が送れるよう支援することを指します。主な業務には以下のようなものがあります:
- 介護サービスの利用契約
- 施設入所の手続きや費用の支払い
- 医療機関での各種手続き
- 福祉サービスの利用手続き
- 定期的な訪問による生活状況の確認
成年後見人の責任
成年後見人には、被後見人の利益を第一に考え、誠実に職務を遂行する責任があります。主な責任には以下のようなものがあります:
1. 善管注意義務
成年後見人は、善良な管理者の注意をもって職務を遂行する義務があります。これは、通常期待される程度の注意を払って業務を行うことを意味し、怠った場合は損害賠償責任を負う可能性があります。
2. 身上配慮義務
民法858条に規定されている義務で、被後見人の意思を尊重し、その心身の状態や生活状況に配慮しながら後見業務を行うことが求められます。
3. 報告義務
成年後見人は、定期的に家庭裁判所に対して後見事務の報告を行う必要があります。通常、年に1回程度の頻度で以下のような書類を提出します:
- 後見事務報告書
- 財産目録
- 収支計算書
成年後見人の具体的な活動例
成年後見人の日々の活動をイメージしやすくするため、具体的な例を挙げてみましょう。
【例】田中さん(75歳、女性)の場合
田中さんは軽度の認知症があり、一人暮らしをしています。息子の山田さんが成年後見人に選任されました。
- 財産管理:
- 田中さんの預金通帳と印鑑を管理し、毎月の年金収入を確認
- 公共料金や介護サービス利用料の支払いを代行
- 田中さんの所有する賃貸アパートの家賃収入を管理
- 身上保護:
- 週に2回のデイサービス利用の契約を行い、送迎の手配
- 月に1回の通院に同行し、医師との面談や薬の管理を支援
- 2週間に1回程度訪問し、生活状況を確認
- 報告義務:
- 毎月の収支をエクセルで記録し、領収書を保管
- 年に1回、家庭裁判所に後見事務報告書を提出
成年後見人が行えない行為
成年後見人には広範な権限がありますが、一方で行えない行為もあります。主なものは以下の通りです:
- 医療行為への同意
- 婚姻や養子縁組などの身分行為
- 選挙権の行使
- 遺言の作成
これらの行為は被後見人の極めて個人的な意思決定に関わるものであり、成年後見人といえども代わりに行うことはできません。
まとめ
成年後見人の役割は、被後見人の財産管理から日常生活の支援まで多岐にわたります。その責任は重大であり、被後見人の利益を第一に考え、誠実に職務を遂行することが求められます。一方で、成年後見人にも制限があり、被後見人の個人的な意思決定に関わる行為は行えません。成年後見制度は、判断能力が不十分な方の権利を守り、その人らしい生活を支援するための重要な制度です。成年後見人はこの制度の中心的な役割を担い、被後見人の生活を法律面と実務面の両方からサポートしています。