はじめに
成年後見制度は、認知症や知的障害、精神障害などにより判断能力が不十分な方を法的に保護し支援する制度です。この制度を利用する際、日常生活に欠かせない銀行取引においてどのような対応が必要なのか、また注意すべき点は何かについて、多くの方が疑問を抱えています。本記事では、成年後見制度における金融機関の対応と、利用者が知っておくべき重要な注意点について解説します。
成年後見制度と銀行取引の関係
成年後見制度を利用する場合、被後見人の財産管理は成年後見人の重要な役割の一つとなります。そのため、銀行取引は成年後見制度の運用において非常に重要な位置を占めています。
金融機関への届出
成年後見制度の利用が開始されたら、まず金融機関への届出が必要となります。この届出により、被後見人の口座名義が「成年被後見人○○○○成年後見人△△△△」のように変更されます。
必要書類
金融機関への届出の際には、以下のような書類が必要となります9:
- 成年後見人等に関する届出書(銀行所定の様式)
- 登記事項証明書(家庭裁判所が発行)
- 成年後見人の本人確認書類
- 被後見人の本人確認書類
金融機関の対応と注意点
口座の管理
成年後見人は、被後見人の預金口座を管理する権限を持ちます。ただし、複数の口座がある場合は、管理の簡便化のために口座をまとめることが推奨されています。
キャッシュカードの取り扱い
多くの金融機関では、成年後見人に対して代理人キャッシュカードの発行が可能です。ただし、インターネットバンキングの利用は通常認められません。
新規口座開設
成年後見制度利用中に新規口座を開設する場合も、成年後見人の届出が必要です。この際、被後見人本人の来店が求められる場合もあります。
成年後見制度利用時の銀行取引における注意点
1. 利益相反行為の回避
成年後見人が被後見人との間で利益相反となる取引を行うことは禁止されています。例えば、被後見人の預金を成年後見人自身の口座に移すような行為は避けなければなりません。
2. 適切な財産管理
成年後見人は、被後見人の財産を安全確実な方法で管理する義務があります。投機的な投資や、リスクの高い金融商品への投資は避けるべきです。
3. 定期的な報告
成年後見人は、定期的に家庭裁判所に財産管理の報告をする必要があります。そのため、銀行取引の記録を適切に保管し、管理することが重要です。
4. 金融機関との連携
成年後見制度の利用開始後も、被後見人の状況に変化がある場合は、速やかに金融機関に報告する必要があります。例えば、成年後見人の変更や、被後見人の死亡などの情報は、遅滞なく届け出ることが求められます。
金融機関の対応の変化
近年、認知症高齢者の増加に伴い、金融機関の対応にも変化が見られます。例えば、全国銀行協会は2021年2月に、認知症患者の預金引き出しに関する新たな指針を発表しました。この指針では、成年後見制度の利用を基本としつつも、緊急時や制度利用までの間の対応として、一定の条件下で親族による預金引き出しを認める可能性を示しています。ただし、これはあくまで指針であり、各金融機関の判断に委ねられている部分も多いため、実際の対応は金融機関によって異なる可能性があります。
まとめ
成年後見制度を利用する際の銀行取引には、いくつかの重要な注意点があります。金融機関への適切な届出、口座管理の簡素化、利益相反行為の回避、適切な財産管理、定期的な報告、そして金融機関との連携が特に重要です。また、金融機関の対応も徐々に変化しており、認知症高齢者への配慮が進んでいます。しかし、具体的な対応は金融機関によって異なる可能性があるため、事前に利用する金融機関の方針を確認することが賢明です。成年後見制度は、判断能力が不十分な方の権利を守るための重要な制度です。銀行取引を含む財産管理を適切に行うことで、被後見人の生活の質を維持・向上させることができます。制度利用を検討している方は、本記事の内容を参考にしつつ、専門家にも相談しながら、最適な方法を選択することをお勧めします。