はじめに
日本で難民認定申請中の外国人の多くは、「申請中に働くことができるのか?」「特定活動(難民申請中)で就労許可が出る条件は?」という不安を抱えています。
近年、就労目的と疑われる難民申請の増加を受け、出入国在留管理庁は「就労制限の対象となる難民認定申請者について」という運用を公表し、特定活動での就労可否の判断基準を明確化しています。
この記事では、公的情報をもとに、特定活動(難民申請中)で就労許可を得る際の注意点と、不許可になりやすい典型例を整理して解説します。
特定活動(難民申請中)とは
出入国在留管理庁は、難民認定申請中の外国人に対し、個々の事情に応じて在留資格「特定活動」を付与し、審査中の一定期間、日本に在留することを認めています。
この特定活動は、ワーキング・ホリデーなどと同じ枠組みの在留資格ですが、難民認定申請者の場合は、難民条約上の難民該当性や人道上の配慮の必要性に応じて、在留期間や就労の可否が細かく区分されています。
法務省の資料では、難民申請案件をA・B・Dなどの類型に振り分け、そのうち「D案件」に該当する初回申請者のうち、一定の要件に該当する者(D1など)については、就労制限の対象とする新たな運用が示されています。
これにより、同じ「特定活動(難民申請中)」であっても、ある人は「特定活動(6月・就労可)」、別の人は「特定活動(3月・就労不可)」とされることがあり、就労可否の差が生じています。
就労可否の確認方法と「指定書」の重要性
重要なポイントは、在留カードには「特定活動」としか書かれず、「就労可」か「就労不可」かが外見だけでは分からないという点です。
就労の可否は、入管庁が発行しパスポートに添付される「指定書」に記載されているため、本人・雇用主ともに必ず指定書を確認する必要があります。
例えば、指定書に「難民認定申請または審査請求中のため、日本国内で報酬を得る活動が可能(風俗営業等を除く)」といった趣旨の記載がある場合、その範囲での就労が認められます。
一方、「就職活動および当該活動に伴う日常的な活動(収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動を除く)」といった文言がある場合は、報酬を受ける活動は認められておらず、アルバイトを含め就労は不可となります。
企業側が難民申請中の特定活動所持者を雇用する場合には、在留カードだけで判断せず、指定書をコピーして保管し、就労可否や業務範囲・制限内容を確認したうえで雇用契約を結ぶことが求められます。
就労許可が出やすいケース・出にくいケース
法務省資料によれば、「本来の在留資格に該当する活動を続けながらでも難民申請が可能であるにもかかわらず、当該活動をやめて難民申請をした人」や、「出国準備期間中に難民申請をした人」は、濫用・誤用の可能性が高いとして、就労制限の対象とされています。
この場合、「特定活動(3月・就労不可)」が付与され、原則として就労できない類型(D1など)に分類される運用が示されています。
一方、在留資格を適法に維持しつつ難民申請を行っており、難民該当性や補完的保護の必要性を示す相応の資料がある者については、「特定活動(6月・就労可)」など、就労可能な特定活動が付与される余地があります。
ただし、この判断は個別事情に基づく行政裁量であり、同じ国籍・同じ事情に見えても一律に同じ結果になるわけではないため、証拠資料の内容・タイミング・申請経緯の一貫性が非常に重要です。
不許可・就労制限となりやすい典型例
就労可能な特定活動への変更・更新や、就労許可付きの指定書が出にくい典型例として、法務省資料や実務上、次のようなパターンが挙げられます。
- ① 出国準備期間中に難民申請を行ったケース
自ら帰国意思を表明して短期滞在や特定活動(出国準備)を希望した後、短期間で難民申請に切り替えた場合、就労や在留継続を目的とした濫用申請とみなされやすく、特定活動(3月・就労不可)となる運用が明記されています。 - ② 本来の在留活動を行わなくなってから難民申請したケース
留学生が退学・除籍後に申請した場合や、技能実習を中断・失踪後に申請した場合など、本来の在留資格の活動を止めてから難民申請を行うと、就労制限の対象となる類型に該当しやすいとされています。 - ③ 短期間に複数回申請するなど、就労目的が強く疑われるケース
繰り返しの申請や、申請内容の整合性が乏しい場合には、就労目的の申請と判断され、就労可の特定活動や在留期間の延長が認められにくくなります。
これらのケースでは、仮に雇用先が見つかっていても、指定書上「就労不可」とされている限りは働くことができず、企業側が雇用した場合には不法就労助長となるリスクがあります。
就労許可を得るために押さえたい実務上のポイント
特定活動(難民申請中)で就労を認めてもらうためには、まず難民認定手続自体が真摯なものであり、就労や在留継続のみを目的とした申請ではないことを、提出資料や経緯説明で丁寧に示す必要があります。
具体的には、迫害・人権侵害に関する資料や証言、帰国不能の理由、母国の治安情勢などを、可能な範囲で客観的な証拠に基づいて提出することが重要です。
また、以下のような点を意識すると、就労可の特定活動が付与される可能性を高めるうえでプラスに働く場合があります。
- 生活基盤の安定性
住居、生活費の確保状況、支援団体や家族の支援体制などを明らかにし、「就労が認められれば自立して生活できる」ことを説明します。 - 法令遵守と素行
交通違反やオーバーステイなどがないこと、住民登録・税金・社会保険等を適切に履行していることは、日本での在留を継続するうえで重要な評価要素です。 - 雇用内容の適正さ
就労可となった場合にも、就労先の業種や職務内容が適法であり、在留資格の趣旨や労働法令に反しないことを確認する必要があります。
なお、就労可能な特定活動であっても、指定書に特別な制限(週○時間以内、特定業種除外など)が記載される場合がありますので、その文言を読み飛ばさないことが大切です。
よくある誤解と注意点(参考事例)
例として、Aさんは技能実習を途中で辞めてから難民申請を行い、その後、特定活動(難民申請中)となりましたが、指定書には「就労不可」と記載されていました。Aさんは在留カードに「特定活動」としか書かれていないことから、自分もアルバイトができると思い込み、知人の紹介で工場で働き始めました。結果として、入管からは不法就労とみなされ、在留継続が困難になりました。
このように、「特定活動=全部就労可」ではなく、「特定活動(難民申請中)でも就労可と不可の2パターンがある」「判断は指定書を見る」という基本を押さえることが非常に重要です。
また、企業側が正しい理解を持たないまま、「難民ビザだから働けるはず」と誤解して採用してしまうケースも少なくありません。雇用主が指定書を確認せずに雇用し、不法就労助長で処罰されるリスクにも注意が必要です。
まとめ
特定活動(難民申請中)は、同じ名称でも「就労可」と「就労不可」が存在し、その違いは在留カードではなく「指定書」に明記されています。
出国準備期間中に難民申請をしたケースや、本来の在留活動を中止してから申請したケースは、濫用・誤用と判断されやすく、「特定活動(3月・就労不可)」に振り分けられる典型例とされています。
一方で、適法な在留活動を維持しつつ、難民該当性や人道上の事情を裏付ける資料を丁寧に提出している場合には、就労可の特定活動が認められる可能性もありますが、その判断は個別事情に基づく裁量であり、一律に保証されるものではありません。
難民申請中に働きたい場合や、難民申請中の人を雇用したい企業は、指定書の内容を必ず確認したうえで、疑問点があれば出入国在留管理局や専門家に早めに相談することが、不許可や違反リスクを避けるための最善策といえます。


