はじめに
友人や親族から「一時的にお金を貸してほしい」と頼まれたとき、信頼関係を重視するあまり、口約束だけで貸してしまうケースは少なくありません。しかし、返済が遅れたり、連絡が取れなくなったりすると、「貸したお金を返してほしい」という当然の請求であっても、回収には大きな負担がかかります。
このようなトラブルを予防し、万一返済が滞った場合にも対応しやすくする方法の一つが、金銭消費貸借契約を公正証書で作成することです。特に、強制執行認諾文言を付けた公正証書にしておくと、一定の条件のもとで訴訟を経ずに強制執行の手続へ進める可能性があります。
金銭消費貸借契約とは
金銭消費貸借契約とは、金銭を借りた人が、受け取った金額と同額の金銭を後日返還することを約束する契約です。身内や知人間の貸し借りでも、法的には契約として扱われます。
もっとも、口頭だけの約束では、後になって「もらったお金だと思っていた」「返済期限は決めていなかった」「すでに返した」といった主張が出るおそれがあります。そのため、少なくとも次の事項を契約書で明確にしておくことが重要です。
- 貸主・借主の氏名、住所
- 貸付金額
- 金銭を交付した日
- 返済期限
- 分割返済の場合の毎月の返済額と返済日
- 利息や遅延損害金の有無・割合
- 期限の利益喪失に関する定め
- 強制執行認諾に関する条項
金銭の交付については、現金手渡しよりも、振込によって履歴を残しておくほうが、後日の立証に役立ちます。
公正証書にする最大のメリット
公正証書とは、公証人が当事者の意思に基づいて作成する公文書です。金銭の支払を目的とする契約について、公正証書に「債務者が支払をしないときは、直ちに強制執行に服する」旨の陳述を記載しておくと、その公正証書は執行証書となります。
通常の借用書や私文書の契約書だけでは、借主が返済しない場合、原則として訴訟、支払督促、民事調停などを通じて債務名義を取得してから、差押えを申し立てることになります。
これに対し、強制執行認諾文言付きの公正証書があれば、返済の不履行後に必要な手続を整えた上で、判決を得るための訴訟を経ずに、借主の給与、預金、売掛金などに対する差押えを申し立てる道が開かれます。
ただし、公正証書を作成しただけで自動的に預金や給与を回収できるわけではありません。実際に強制執行をするには、公正証書正本等に加え、執行文の付与や送達証明書の取得など、所定の準備が必要です。
友人・親族間こそ条件を明確に
親族間の貸付けでは、「家族だから大丈夫」「返せるときに返してくれればよい」と考えがちです。しかし、返済条件が曖昧なままでは、貸主側も催促しづらく、借主側も返済を先延ばしにしやすくなります。
例えば、兄が妹に150万円を貸す場合、単に「余裕ができたら返して」とするのではなく、「毎月3万円を毎月末日までに貸主指定口座へ振り込む」「2回分の返済を怠ったときは残額を一括で支払う」といった形で、返済方法と期限を具体的に定めることが大切です。
さらに、返済が途絶えた場合に備え、強制執行認諾文言付きの公正証書としておけば、感情的な対立を深める前に、契約で決めた対応を検討しやすくなります。公正証書の作成は相手を疑うためではなく、貸主と借主の双方が返済条件を正確に理解し、不要な誤解を防ぐための手段といえます。
公正証書作成時の注意点
公正証書を作成する際には、貸付けの実態と契約内容が一致していることが重要です。実際には金銭を交付していないのに、形式だけを整える目的で作成することは適切ではありません。
また、強制執行認諾文言があっても、対象となるのは原則として一定額の金銭の支払を目的とする債務です。返済額、返済期日、利息、遅延損害金などが不明確なままでは、後の執行手続で問題になるおそれがあります。
公証役場での作成に当たっては、本人確認資料、契約内容の資料、貸付金額や返済条件を整理したメモなどを準備します。代理人が手続を行う場合には、委任状や本人確認に関する書類も必要になるため、事前に公証役場へ確認すると円滑です。
まとめ
友人や親族への貸付金は、信頼関係があるからこそ、返済条件を曖昧にせず、書面で明確にしておくことが大切です。金銭消費貸借契約を強制執行認諾文言付きの公正証書にすると、返済が滞った場合、訴訟を経ずに強制執行を申し立てられる可能性があり、貸付金回収に向けた有力な備えになります。
もっとも、公正証書は万能ではなく、借主に差し押さえるべき財産や収入がなければ、回収が直ちに実現するとは限りません。貸付けを行う前に返済可能性を確認し、貸付金額、返済期限、返済方法、期限の利益喪失、強制執行認諾などを適切に定めることが、将来のトラブル予防につながります。


