はじめに
家族が亡くなった後、「公証役場に行けば相続手続きを進められるのでは」と考える方もいるでしょう。公証役場では、公正証書遺言の有無を調べたり、合意済みの遺産分割を公正証書にしたりできます。一方、相続放棄や、まとまらない遺産分割協議を解決する手続は扱っていません。まずは、目的に応じた窓口を見極めることが大切です。
公証役場でできること
公正証書遺言を探す
亡くなった方が公正証書遺言を作成したか分からない場合、相続人などの利害関係人は、全国の公証役場で検索を申し出られます。検索の申出は無料です。検索できるのは平成元年以降に作成された公正証書遺言で、確認できるのは遺言の有無と保管先の公証役場です。
申出には、亡くなった事実を示す除籍謄本など、相続人であることを示す戸籍謄本、本人確認書類などが必要です。遺言が見つかり、保管先が分かったら、その公証役場に謄本の請求方法を確認しましょう。保管先へ行かずに郵送で請求する方法もあります。なお、公正証書遺言に家庭裁判所の検認は必要ありません。
遺産分割協議を公正証書にする
相続人全員で遺産の分け方に合意した後、公証人に依頼して「遺産分割協議公正証書」を作成できます。不動産の相続登記や預貯金の払戻しでは、通常、協議の内容を示す書面が必要になります。ただし、一般の遺産分割協議書も作成できるため、必ず公正証書にしなければならないわけではありません。
公正証書の作成を相談する前に、戸籍で相続人を確認し、不動産や預貯金を調べ、誰が何を取得するかを明確にしておきましょう。公証役場への相談時には、除籍謄本や続柄の分かる戸籍、本人確認書類のほか、財産の内容が分かる資料などが必要です。作成には、取得する財産の価額に応じた手数料もかかります。
公証役場でできないこと
合意していない分け方を決めること
公証人が遺産分割協議公正証書にできるのは、相続人の間で成立した合意です。相続人全員の合意がなければ、遺産分割協議は成立しません。相続人の中に連絡が取れない方や、意思表示ができない方がいても、その方を除いて協議書を作ることはできません。状況に応じて、家庭裁判所での手続が必要になります。
分け方をめぐる話合いがまとまらない場合は、家庭裁判所の遺産分割調停などを検討します。公正証書を作れば、公証人がどちらの主張が正しいか判断してくれる、という制度ではありません。
相続放棄や遺言書の検認
「遺産分割協議書に『財産を取得しない』と書けば、相続放棄になる」と思われることがあります。しかし、財産を受け取らないという相続人同士の合意と、財産・債務を一切引き継がない相続放棄は別です。公証役場で書面を作成しても、家庭裁判所への相続放棄の申述に代えることはできません。
また、自宅などで保管されていた自筆証書遺言の検認も、公証役場ではなく家庭裁判所の手続です。ただし、法務局の保管制度を利用した自筆証書遺言について交付される遺言書情報証明書には、検認は必要ありません。封印のある遺言書を見つけた場合は、自分で開封せず、家庭裁判所での手続を確認しましょう。
相続放棄と登記の期限
相続放棄は、原則として「自分のために相続が始まったことを知ったとき」から3か月以内に、亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ申述します。借金の有無などを調べても判断がつかない場合は、期間内に熟慮期間の伸長を申し立てる方法があります。協議書の作成を待つ間に期限を過ぎないよう注意してください。
不動産がある場合、公正証書を作ることと相続登記をすることも別の手続です。相続による不動産の取得を知った日から3年以内の登記義務があり、遺産分割で取得者が決まった場合には、その成立日から3年以内に分割内容に沿った登記をする義務もあります。
まとめ
相続開始後の公証役場は、公正証書遺言の検索や、合意済みの遺産分割を公正証書にする際に利用できます。一方、相続放棄・遺言書の検認・合意できない遺産分割には、それぞれ家庭裁判所の手続が関わります。特に相続放棄の3か月という期限を意識し、遺言の確認、相続人・財産の調査、必要な手続を並行して進めましょう。


