はじめに
共有名義の不動産は、相続のたびに共有者が増え、売却や建て替えなどの意思決定が難しくなるという大きな問題を抱えています。 そこで、近年は「家族信託」を活用して、共有名義不動産の管理・承継をスムーズにするケースが増えています。 一方で、共有不動産を信託財産とする場合ならではの注意点を見落とすと、想定外の税負担や家族間紛争につながることもあるため、仕組みを正しく理解することが大切です。
家族信託と共有名義不動産の基本
家族信託(民事信託)は、財産の所有者(委託者)が、信頼できる家族など(受託者)に財産の管理・処分を任せ、利益を受ける人(受益者)を定める仕組みです。 不動産などの財産を「信託財産」として切り出し、将来の認知症リスクや相続を見据えた柔軟な管理・承継を可能にします。
共有名義不動産とは、一つの不動産について複数人が一定の持分割合で権利を持っている状態をいい、売却や大規模修繕などの重要な行為には原則として共有者全員の同意が必要です。 共有者の一人でも反対したり、認知症等で判断能力を失ったりすると、手続きが止まってしまうという構造的なリスクがあります。
共有名義不動産を家族信託に入れるメリット
共有名義不動産を信託財産とし、特定の家族に管理・処分権限を集中させることで、意思決定を迅速に行えるようになることが大きなメリットです。 たとえば、共有者全員を委託者兼受益者とし、長子など一人を受託者としておけば、賃貸管理や売却の窓口を一本化できます。
また、将来の相続で共有者がさらに増えることが確実な場合でも、信託の設計次第で「誰が最終的に不動産を取得するか」をあらかじめ定めることができ、いわゆる「争続」の予防に役立ちます。 元気なうちに信頼できる家族に管理権限を移しておくことで、認知症発症後も賃貸経営や売却などを止めずに済む点も評価されています。
共有名義不動産を信託するときの主な注意点
共有名義不動産を信託財産とする場合、共有者のうち誰の持分を信託するかで構成が変わります。 全員の持分をまとめて信託する場合は、共有者全員の合意が前提となり、合意形成が難しいご家庭では時間を要することがあります。 一方、自分の持分のみを信託に出すことも法的には可能ですが、その場合は共同所有者との調整や、将来の処分方法をどうするかまで含めて慎重な設計が必要です。
また、信託契約書の内容が曖昧だったり、矛盾を含んでいたりすると、家族の間で解釈が分かれてトラブルに発展する事例も指摘されています。 特に、「信託の終了条件」「不動産を売却する場合の判断権者」「信託終了後の帰属先(帰属権利者)」などは、具体的に条項を設計しておくことが重要です。
登記・登録免許税などの実務上のポイント
不動産を信託財産に含める場合、法務局で「所有権移転登記」と「信託登記」を行い、登記簿上の名義を受託者に変更するのが実務の基本となります。 このとき、不動産の登記事項証明書には信託目録が追加され、信託に基づいて受託者が管理していることが外形上も分かるようになります。
登記を行う際には、登録免許税が課されますが、信託の内容や登記の有無・方法によって税負担が変わるため、国税庁の情報などを確認しつつ専門家に相談することが望ましいです。 なお、所有権移転登記自体は義務化されていないものの、登記をしなければ信託を第三者に主張できないため、実務上は登記を行うのが一般的とされています。
金融機関・ローン・信託口口座の確認
共有名義不動産に住宅ローンやアパートローンなどの抵当権が付いている場合、銀行の承諾なく信託を組成すると、契約違反として一括返済を求められるおそれがあると指摘されています。 信託設定前に、金融機関の信託に対する取扱い(信託後の担保継続や名義変更の扱いなど)を必ず確認しておくことが重要です。
また、信託財産から生じる賃料や売却代金を管理するため、いわゆる「信託口口座」を開設するケースもありますが、金融機関によっては取り扱いに差があるため、事前調整が推奨されています。 口座名義や入出金ルールを明確にしておくことで、「誰のお金なのか」が不明確になることを防ぎ、税務や相続の場面での混乱を減らすことができます。
家族間のコミュニケーションと専門家の活用
家族信託は、法律上は有効でも、家族の誰かが内容や目的を理解していないと、のちに「不公平だ」「騙された」といった感情的な対立につながることがあります。 特に共有名義不動産は、相続人全員にとって関心の高い資産であることが多いため、信託の前に丁寧に説明し、合意形成のプロセスを大切にすることがトラブル防止につながります。
公正証書で信託契約を作成したり、司法書士・弁護士・行政書士などの専門家が関与することで、契約内容の抜け漏れや法的な不備を減らすことができます。 また、受託者の暴走や不正利用に備えて、信託監督人を置くなどの仕組みを採用する例も見られます。
まとめ
共有名義の不動産を家族信託に託すことで、意思決定の迅速化や将来の相続トラブルの予防など、大きなメリットが期待できますが、その分、登記・税務・金融機関との調整など、事前に確認すべきポイントも多くなります。 信託契約の内容があいまいだと、かえって家族間の紛争や手続きの行き詰まりを招くおそれがあるため、目的を明確にしたうえで、条項を具体的に設計することが大切です。
特に、共有者の誰の持分をどのような形で信託するのか、信託の終了条件と終了時の帰属先をどうするのか、ローンや税金の扱いをどう整理するのかといった点は、専門的な検討が欠かせません。 家族全員の理解と合意を重視しつつ、公的情報や専門家の知見を活用して、安心できる家族信託スキームを組み立てていくことをおすすめします。


