はじめに
日本にいる親や配偶者が病気になり、外国に住む家族が日本で介護したいというご相談は年々増えています。
しかし、出入国在留管理庁が定める在留資格の枠組みの中で「家族による介護」を目的とした在留をどの在留資格で認めるかは、必ずしも分かりやすく整理されているわけではありません。
この記事では、病気の家族を日本で介護する目的で考えられる在留資格のうち、「特定活動」を中心に、どのような場合に許可が検討されるのか、関連する在留資格との違いも含めて分かりやすく解説します。
「特定活動」ビザとは
出入国在留管理庁は、「特定活動」を「法務大臣が個々の外国人について特に指定する活動」と定義しており、他の在留資格のどれにも当てはまらないケースを個別にカバーするための在留資格と位置づけています。
具体例としては、外交官等の家事使用人、ワーキング・ホリデー、経済連携協定に基づく看護師・介護福祉士候補者などが挙げられ、在留期間は原則として5年、3年、1年、6月、3月などから法務大臣が個別に指定します。
「特定活動」は内容ごとにいわゆる「〇〇号特定活動」などと細かく類型化されており、家事使用人や医療滞在の同伴者、高度専門職外国人の親など、さまざまなパターンが告示や運用で整理されています。
病気の家族を介護するために日本に滞在したい場合も、既存の在留資格に該当しないときには、この「特定活動」が検討されることがありますが、あくまで個別審査であり、必ず認められるものではありません。
家族介護目的で検討される主な在留資格
病気の親族を日本で介護したい場合、いきなり「特定活動」だけを見るのではなく、まずは既存の在留資格との関係を整理しておくことが重要です。
- 「短期滞在」
観光や親族訪問などを目的とした在留資格で、最長でも90日までの短期の滞在が想定されています。
親族訪問として病気の家族の看病や短期的な付き添いを行うことはあり得ますが、長期的な介護を前提とした滞在には基本的に向きません。 - 「家族滞在」
就労系在留資格や「留学」などを持つ外国人を扶養する配偶者・子が、日本で日常的な家族生活を送るための在留資格です。
出入国在留管理庁の在留資格一覧表でも、「教授」「技術・人文知識・国際業務」「介護」「特定技能2号」などを持つ者の扶養を受ける配偶者又は子の日常的な活動とされていますが、親の介護を目的とした「兄弟姉妹」などは想定されていません。 - 「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」「定住者」
これらはいずれも身分や地位に基づく在留資格であり、病気の家族の介護も含めた幅広い生活が可能ですが、取得要件は別途厳格に定められており、「介護が必要だから」という理由のみで新たに認められるものではありません。
これらに当てはまらないが、人的なつながりや人道上の配慮から何とか滞在を認める必要がある、という場合に「特定活動」での個別指定が検討されるイメージです。
「病気の家族の介護」で特定活動が検討される典型パターン
法務省の公表情報では、「病気の家族の介護」を名目とする特定活動として、明確な名称付き類型が独立して列挙されているわけではありません。
しかし、他の告示類型との関係や、実務上の運用から、次のような考え方が整理できます。
- 「家事使用人」や「高度専門職外国人の親」に関する特定活動との類似性
高度専門職外国人や特別高度人材外国人については、病気等により日常の家事に従事できない配偶者を支えるための家事使用人や親を特定活動で受け入れる類型が告示されています。
これらはあくまで高度人材を対象とする限定的な枠組みですが、「病気等により日常の家事に従事することができない」ことを前提に家族や家事使用人を呼び寄せる発想は、家族介護目的の特定活動とも方向性が近いといえます。 - 「日常生活上の世話をする活動」を指定する特定活動
入管法上の告示では、「在留する者の日常生活上の世話をする活動(収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動を除く。)」といった文言を用いた特定活動の類型もあり、実務上、長期入院や重い障害を抱える家族に対する付き添い・介護活動が検討対象となることがあります。
ただし、これはあくまで医師の診断書等で継続的な介護・付き添いが必要であることを具体的に証明し、その介護を担う者が他にいない等の事情を丁寧に説明した上で、個別に審査される形になります。 - 「医療滞在」関連特定活動との違い
「医療滞在」やその同伴者を対象とした特定活動は、医療目的で短期間日本を訪れる富裕層などを念頭に置いた制度であり、治療を受ける本人や付添者を対象とするものです。
日本に既に住んでいる日本人や永住者の親族を介護するケースは、この「医療滞在」類型とは別枠で検討されるため、どの特定活動類型に該当し得るかは、地方出入国在留管理局での個別相談が欠かせません。
許可の可能性を左右する主なポイント
病気の家族を介護するための特定活動は、法律上の明文類型というより、すでに存在する告示類型の枠組みを前提とした「個別具体の運用」に近い位置づけです。
そのため、次のような要素をどこまで丁寧に立証できるかが、許可の可否に大きく関わってきます。
- 介護を必要とする家族の病状・必要な介護内容
継続的な介護や付き添いが必要かどうかは、医師の診断書、看護・介護の指示内容、入退院の見込みなどの客観的資料で示す必要があります。
「一時的に手術の付き添いをしたい」といった短期的なニーズなのか、「日常生活全般にわたり介護が必要な状態が続く」のかによっても、適切な在留資格や在留期間の考え方が異なります。 - 日本側家族の在留状況・他の支援者の有無
介護を受ける本人が日本人なのか、永住者なのか、あるいは他の在留資格を持つ外国人なのかによって、在留資格の組み合わせや説明の仕方が変わります。
また、日本に他の家族(配偶者、成年の子、兄弟姉妹など)がいるか、介護サービス(公的介護保険・訪問介護等)をどの程度利用しているかも、必要性の判断要素として重要です。 - 介護を行う親族との関係と生活基盤
介護を行う予定の方が、介護が必要な家族とどのような親族関係にあるか(子、兄弟姉妹、孫など)、過去の同居歴や生活実態も含めて丁寧に説明する必要があります。
あわせて、日本滞在中の生活費の負担者や資金計画、介護を担う方の本国での仕事関係なども含めて、長期間の滞在が必要かつ相当かどうかが判断されます。 - ほかの在留資格や短期滞在では対応できない理由
「短期滞在」や、「家族滞在」等の既存の在留資格では事足りない事情を、申請理由書などで具体的に示すことが求められます。
たとえば「3か月を超える長期入院が見込まれている」「他に介護可能な親族がいない」など、特定活動として個別に指定する必要性を正面から説明することが重要です。
想定される申請の流れと必要書類のイメージ
特定活動で病気の家族を介護するために日本に滞在したい場合、在留資格認定証明書交付申請や在留資格変更許可申請のいずれかの手続が想定されます。
入管庁は在留資格ごとの申請書式や必要書類を公表しており、特定活動についても所定の様式を用いて地方出入国在留管理局に申請することになります。
必要書類の例として、次のようなものが考えられます(実際には事案に応じて追加・修正されます)。
- 共通的な書類
- 介護の必要性・家族関係に関する書類
- 医師の診断書(病状、介護・付き添いの必要性、見込み期間などを明記したもの)
- 介護を受ける方の住民票や戸籍など(日本での身分関係や住所を確認する資料)
- 親族関係を証明する戸籍・出生証明書等
- 生活費や介護体制に関する書類
- 日本滞在中の生活費負担者の収入証明・残高証明等
- 介護サービス利用状況の説明資料(必要に応じてケアプランの概要など)
なお、特定活動の個別指定に関わる詳細な必要書類や書き方は、出入国在留管理局の窓口や専門家への相談を通じて確認することが望ましいです。
事例イメージ
- 事例:Aさん(40代女性・海外在住)が日本の父を介護するケース
Aさんは海外で仕事をしていましたが、日本に住む父(75歳)が脳梗塞で倒れ、退院後も日常生活の多くに介助が必要な状態になりました。
日本には父のほかに近い親族がおらず、市区町村の介護保険サービスを利用しているものの、通院や食事、夜間の見守りなど、家族による支援が不可欠な状況です。
このような場合、まずは短期滞在で一時的に日本に滞在しつつ、病状や介護体制を確認したうえで、必要に応じて特定活動による個別の在留を検討するといった流れが考えられます。
実際にどの在留資格・在留期間が適切かは、父の病状、他に介護できる親族の有無、Aさんの仕事や生活の状況など、多数の要素を踏まえて入管当局が判断するため、行政書士などの専門家に事前相談をしておくことが有効です。
まとめ
病気の家族を日本で介護するために長期的な滞在を希望する場合、既存の在留資格に明確な「介護家族ビザ」があるわけではなく、「短期滞在」や「家族滞在」などとの関係を整理したうえで、「特定活動(Designated Activities)」による個別の指定が検討されることになります。
その際には、介護の必要性を示す医師の診断書、日本側家族の在留状況や他の支援者の有無、生活費の負担能力などを丁寧に立証し、「なぜこの人が日本で介護を行う必要があるのか」を具体的に説明することが重要です。
特定活動はあくまで個別審査であり、同じような事情でも結果が異なることがあります。
ご自身やご家族の状況に合わせた最適な在留資格の選択と申請戦略を検討するためには、早めに専門家に相談し、最新の運用状況や必要資料を確認しておくことをおすすめします。


