はじめに
公正証書遺言で「自宅不動産を長男に相続させる」と定めていても、そのままでは不動産の名義は変わりません。
法務局で「相続登記(名義変更)」の手続きを行ってはじめて、相続人名義に変更されます。
この記事では、法務局が公開している「相続登記ガイドブック」や「公正証書遺言による相続」の資料をもとに、公正証書遺言がある場合の相続登記の基本的な流れや必要書類を、できるだけ分かりやすく整理してご紹介します。
具体的な流れをイメージしやすいように、参考イメージ事例も交えながら説明します。
公正証書遺言を使った相続登記の基本ポイント
公正証書遺言による不動産の相続登記には、他の方式の遺言とは異なる特徴があります。
- 公正証書遺言は家庭裁判所の「検認」が不要で、そのまま相続登記に使えます。
- 相続人や受遺者は、公正証書遺言の内容に従って単独で登記申請でき、遺産分割協議書や他の相続人の印鑑証明書は不要なケースが多いです。
- 法務局への申請は、不動産所在地を管轄する法務局に対して行い、窓口・郵送・オンラインのいずれかを選べます。
令和6年4月1日から、相続登記の申請は原則として義務化されましたので、放置せずに手続きを進めることが重要です。
相続登記の全体の流れ(公正証書遺言がある場合)
法務局の「相続登記ガイドブック」に沿って、公正証書遺言を使う場合の大まかな流れを整理すると、次のようになります。
- 相続人の特定・遺言内容の確認
- 相続する不動産の内容確認(登記事項証明書・固定資産評価額など)
- 必要書類の収集
- 相続登記申請書・相続関係説明図の作成
- 登録免許税の準備と法務局への申請
- 登記完了後、登記識別情報・完了証の受け取り
それぞれを、公正証書遺言のケースに絞ってもう少し詳しく見ていきます。
ステップ1 相続人と遺言内容の確認
1-1 相続人の確認
まず、誰が相続人・受遺者になるのかを、戸籍から確認します。
法務局資料では、「相続人の特定」として、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍謄本等を集めて確認することが示されています。
このとき、「法定相続情報一覧図」を作成しておくと、登記や金融機関の手続きで戸籍一式の提出に代えて利用できるため、手続きの負担軽減につながります。
1-2 公正証書遺言の内容を確認
次に、公正証書遺言の中で不動産に関する記載を確認します。
- どの不動産(土地・建物)を
- 誰に(相続人・受遺者)
- どのような割合(全部・持分)で承継させるのか
遺言の記載と登記簿上の表示(所在・地番・家屋番号など)を照らし合わせるために、不動産の登記事項証明書を取得しておきます。
ステップ2 相続する不動産の確認
法務局ガイドブックでは、「相続する不動産の確認」として、登記簿や固定資産税関係書類で不動産を特定することが示されています。
- 不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)
- 固定資産税納税通知書に同封される固定資産課税明細書
- 市区町村役場で取得する固定資産評価証明書
などから、所在地・地番・地目・地積、家屋番号・構造・床面積等を確認します。
固定資産評価証明書の評価額は、後ほど計算する登録免許税(原則:固定資産税評価額の1000分の4)の基礎になります。
ステップ3 必要書類を準備する
法務局の「遺言書(公正証書遺言)による相続」のチェックリストによると、公正証書遺言で相続登記を行う場合、おおむね次のような書類が必要とされています。
- 登記申請書
- 公正証書遺言書の正本または謄本
- 被相続人の死亡が分かる戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)または除籍謄本
- 不動産を相続する相続人の戸籍全部(個人)事項証明書
- 不動産を相続する相続人の住民票の写し(本籍記載のあるもの)
- 固定資産課税明細書または固定資産評価証明書
- 相続関係説明図(作成した場合、戸籍原本を返却してもらいやすくなります)
また、次の書類が追加で必要になるケースもあります。
- 被相続人の登記上の住所と実際の最終住所が異なる場合の住民票の除票や戸籍の附票
- 代理人(司法書士等)に申請を依頼する場合の委任状
原本を手元に残したい書類については、「原本還付請求」の手続を行うことで、コピーを添付し、登記完了後に原本を返してもらうことができます。
ステップ4 相続登記申請書と相続関係説明図の作成
4-1 相続登記申請書のポイント
法務局の「記載例」では、公正証書遺言に基づく所有権移転登記申請書の具体的なひな形が掲載されています。
主な記載項目は以下のとおりです。
- 登記の目的:所有権移転
- 原因:○年○月○日相続
- 相続人(申請人)の住所・氏名
- 不動産の表示(登記事項証明書どおり)
- 課税価格と登録免許税額
- 添付情報(遺言書、戸籍、住民票等の一覧)
敷地権付き区分建物(マンション等)の場合は、建物の表示に加えて、敷地権の種類や持分割合の記載も必要です。
4-2 相続関係説明図を作成するメリット
「相続関係説明図」は、被相続人と相続人との続柄を図で示したものです。
法務局資料には、記載用のひな形と記載例が掲載されているので、これらを参考に作成することができます。
ステップ5 法務局へ申請し、登記完了を待つ
5-1 申請方法と提出先
- 管轄法務局の窓口に持参
- 郵送(書留やレターパックプラス等)
- オンライン申請
提出先は、不動産の所在地を管轄する法務局(本局・支局・出張所)です。
5-2 登録免許税と収入印紙
登録免許税は原則として「固定資産税評価額の1000分の4」で計算し、収入印紙で納付します。
登録免許税の印紙は、申請書とは別紙の台紙に貼り付け、割印をしないことなど、細かなルールも法務局資料に記載されています。
一定の要件を満たす場合には、土地の相続登記について登録免許税が免除される特例も設けられています(例えば、一次相続と二次相続をまとめて登記する場合など、令和7年3月31日までの期限付き制度)。
5-3 登記完了後に受け取るもの
登記が完了すると、次の書類が交付されます。
- 登記識別情報(以前の権利証に相当)
- 登記完了証
- 還付対象となる原本書類(戸籍等)
受け取り方法は、窓口または郵送(本人限定受取郵便を含む)を選択できます。
登記識別情報の郵送受領を希望する場合の切手額や留意点も、法務局資料で案内されています。
参考イメージ:公正証書遺言による自宅不動産の相続登記
次のようなイメージで、公正証書遺言による相続登記が進むケースが多く見られます。
- 亡くなったAさんは、公正証書遺言で「自宅土地建物を長男Bに相続させる」と定めていた。
- Bさんは、公証役場から公正証書遺言の正本(または謄本)を取得し、被相続人Aさんの死亡が分かる戸籍・自分の戸籍と住民票、固定資産評価証明書などを用意。
- 法務局が公開する記載例を参考に、相続登記申請書・相続関係説明図を作成し、自宅不動産を管轄する法務局へ申請。
- 登記完了後、Bさん名義の登記識別情報が交付される。
このように、公正証書遺言があることで、遺産分割協議を行わなくても、不動産の名義変更手続きを比較的スムーズに進められることが多いです。
まとめ
公正証書遺言で不動産を相続させる場合の相続登記は、以下の流れを押さえておくと整理しやすくなります。
- 公正証書遺言は検認不要で、そのまま相続登記に利用できる。
- 亡くなった方の戸籍、不動産を承継する方の戸籍・住民票、公正証書遺言、固定資産評価証明書などを準備する。
- 法務局の「相続登記ガイドブック」や「公正証書遺言による相続」の記載例を参考に、申請書と相続関係説明図を作成する。
- 不動産所在地を管轄する法務局に対して、窓口・郵送・オンラインのいずれかで申請し、登録免許税(原則1000分の4)を収入印紙で納付する。
- 登記完了後、登記識別情報・登記完了証・原本還付書類を受け取る。
具体的な書式や最新の制度(登録免許税の特例、相続登記義務化の運用など)は、必ず法務省・法務局の公式資料で確認しながら進めていただくことをおすすめします。


