ブログ

遺産分割前でも預金を引き出せる?相続預金の仮払い制度と具体的な手続き

6人の手をつなぐ家族。相続関連のアイキャッチ画像。

相続が始まると、故人名義の銀行口座は金融機関の判断で凍結され、原則として相続人全員の合意が整うまで自由に払戻しができなくなります。
しかし、葬儀費用や医療費、当面の生活費など、早急に資金が必要になる場面は少なくありません。

こうした不便を解消するため、平成30年の相続法改正で「預貯金の仮払い制度」(民法909条の2)が新設され、遺産分割前でも一定の範囲で預貯金を引き出せるようになりました。
この記事では、この仮払い制度の仕組みと具体的な使い方、注意点を、相続手続きに関わる行政書士の視点からわかりやすく解説します。

仮払い制度とは、相続開始後、遺産分割が終わる前であっても、各相続人が一定額まで単独で故人名義の預貯金を引き出すことができる制度です。
金融機関の窓口で手続きを行い、家庭裁判所を利用しなくても払戻しが可能になる点が大きな特徴です。

背景には、相続人が葬儀費用や生活費を確保するために、他の相続人に不利な内容で遺産分割協議に応じざるを得ない状況を防ぐという立法趣旨があります。
制度によって、資金需要に対応しつつ、遺産分割における公平性を確保するバランスが図られています。

仮払い制度では、口座ごと(預金の明細ごと)に払戻しの上限額が法律で定められています。
基本となる計算式は、次のとおりです。

相続開始時の預貯金額 × 1/3 × 払戻しを行う相続人の法定相続分

この計算結果の範囲内で、各相続人が単独で金融機関に払戻し請求をすることができます。
さらに、法務省令により「同一の金融機関からの仮払いは150万円まで」とする上限が定められています。

例えば、相続開始時の預金が600万円、相続人が妻と子2人で、妻の法定相続分が2分の1の場合、妻は600万円×1/3×1/2=100万円まで単独で引き出すことができます。
ただし、この計算で150万円を超える場合でも、金融機関ごとの上限150万円が適用されることに注意が必要です。

仮払い制度の手続きは、基本的に次のような流れで進みます。

  1. 相続預金の把握
    故人名義の銀行・支店・口座番号・概算残高などを一覧にして整理します。
  2. 相続人・法定相続分の確認
    戸籍一式や法定相続情報一覧図などで、相続人と法定相続分を証明できる書類を準備します。
  3. 仮払い希望額の計算
    口座ごとの残高と自分の法定相続分をもとに、前述の計算式と150万円の上限を踏まえて必要額を検討します。
  4. 金融機関の相続窓口への申請
    各銀行の相続手続き窓口に対し、必要書類一式を提出して仮払いを申請します。郵送対応の金融機関も多く見られます。
  5. 払戻し後の管理
    仮払いで受け取った資金については、その使途や領収書を整理し、後の遺産分割協議で精算できるように記録しておくことが望ましいです。

なお、金融機関ごとに必要書類や内部運用が異なるため、事前に問い合わせて確認しておくと手続きがスムーズです。

遺産分割前でも預金を引き出す方法としては、仮払い制度のほかに、家庭裁判所に「預貯金債権の仮分割の仮処分」を申し立てる手続きがあります。
これは家事事件手続法200条3項に基づく制度で、相続財産に属する債務の弁済や相続人の生活費などの必要性が認められる場合に、裁判所が特定の預貯金の全部または一部を仮に取得させるものです。

家庭裁判所の仮処分を用いると、仮払い制度の150万円を超える金額についても、必要性に応じて払戻しが認められる可能性があります。
一方で、遺産分割の調停または審判の申立てが前提となることや、裁判所の審理に時間を要することから、迅速性の面では金融機関での仮払い制度より負担が重くなる傾向があります。

葬儀費用や当座の生活費など、比較的少額の資金を早期に確保したい場合には仮払い制度を、より高額な資金が必要で法的な保全も図りたい場合には家庭裁判所の仮処分を検討するといった使い分けが考えられます。

仮払い制度を活用する際には、次の点に注意することが重要です。

  • 仮払いで引き出した預貯金は、遺産の一部を分割して取得したものとみなされ、後の遺産分割において取得済みの財産として扱われます。
  • 使途について法律上の制限はありませんが、葬儀費用や医療費、公共料金、生活費など、相続人間で理解を得やすい支出に充てる方が紛争を避けるうえで望ましいといえます。
  • 他の相続人の利益を害するような多額の払戻しや不透明な使い方をすると、後の遺産分割協議が難航したり紛争の火種になる可能性があります。
  • 金融機関ごとに内部ルールや必要書類が異なるため、事前に確認してから動いた方が手続きのやり直しを防ぐことができます。

実務では、仮払いで引き出した金額・使途・領収書を一覧にしておき、遺産分割協議の場で透明性を持って説明できるよう準備しておくことが、相続人間の信頼関係を保つうえで大切です。

遺産分割前でも預金を引き出せるかという疑問に対しては、民法909条の2に基づく「預貯金の仮払い制度」を利用することで、一定額まで単独での払戻しが可能だといえます。
口座残高×1/3×法定相続分という計算式と、金融機関ごとの150万円という上限を踏まえたうえで、葬儀費用や当面の生活費など必要な資金を確保していくことになります。

より高額な資金が必要な場合には、家事事件手続法200条3項に基づく家庭裁判所の仮分割の仮処分も選択肢となりますが、手続きに時間や手間がかかる点を理解しておくことが重要です。
仮払い制度の利用にあたっては、他の相続人との関係や後の遺産分割への影響も踏まえながら、事前の情報収集と丁寧な説明を心がけることが円滑な相続手続きにつながります。

相続開始直後の資金確保でお悩みの方は、仮払い制度と裁判所の手続きの両方を比較しながら、自身の状況にあった方法を早めに検討されることをおすすめします。

関連記事

  1. 6人の手をつなぐ家族。相続関連のアイキャッチ画像。 ネット銀行・ネット証券の相続手続きはどう進める?口座の見つけ方と…
  2. 6人の手をつなぐ家族。相続関連のアイキャッチ画像。 相続登記に必要な戸籍謄本の郵送取得方法|簡単3ステップで解説
  3. 6人の手をつなぐ家族。相続関連のアイキャッチ画像。 自動車の相続手続き|名義変更に必要な書類といつまでにやるべきか?…
  4. 6人の手をつなぐ家族。相続関連のアイキャッチ画像。 相続財産に借金があった! 債務の相続と対処法を詳しく解説
  5. 6人の手をつなぐ家族。相続関連のアイキャッチ画像。 空き家を相続したくないときの対処法|相続放棄・売却・国庫帰属制度…
  6. 6人の手をつなぐ家族。相続関連のアイキャッチ画像。 相続手続きで重要な相続財産の確認方法と手順
  7. 6人の手をつなぐ家族。相続関連のアイキャッチ画像。 相続放棄の期限が過ぎた後でも諦めないで! 熟慮期間経過後の対応策…
  8. 6人の手をつなぐ家族。相続関連のアイキャッチ画像。 相続手続きの基本!法定相続人と法定相続分の理解

最近の記事

  1. 内容証明郵便のアイキャッチ
  2. 内容証明郵便のアイキャッチ
  3. 内容証明郵便のアイキャッチ
  4. 内容証明郵便のアイキャッチ
  5. 6人の手をつなぐ家族。相続関連のアイキャッチ画像。
PAGE TOP