はじめに
「技術・人文知識・国際業務」(以下、「技人国」)の在留資格は、外国人が日本で専門的な知識やスキルを活かし就労するために必要なビザです。しかし、申請時に勤務先企業が赤字決算の場合、「不許可になるのではないか」と心配される方も多いのではないでしょうか。この記事では、赤字決算の企業が外国人を雇用する際に、入管審査で不許可を防ぐための具体的な対策について、最新の法務省や出入国在留管理庁のガイドライン等の公的情報に基づき、分かりやすく解説します。
技術・人文知識・国際業務ビザの審査基準
「技術・人文知識・国際業務」ビザは、理学・工学・法律学・経済学などの専門分野の知識や、外国の文化的背景を活かした業務に従事する外国人に認められる在留資格です。主な審査ポイントは以下の通りです。
- 業務内容がビザ要件に該当すること
- 申請者の学歴や職歴が要件を満たすこと
- 受け入れ企業と雇用契約を締結していること
- 日本人と同等以上の給与水準であること
- 企業の経営状態が安定していること
このうち、企業の経営状態は「申請者に安定的に給与を支払い、日本で生活できる環境を提供できるか」という観点から重視されます。
赤字決算企業の審査ポイント
赤字決算や債務超過の企業は、入管から「給与支払いの継続性」や「事業の安定性」に疑念を持たれやすくなります。特に、2期連続赤字や債務超過の場合は、より厳格な説明や証拠書類の提出が求められます。
しかし、赤字決算=即不許可ではありません。審査では「なぜ赤字なのか」「今後の事業継続性はどうか」「給与支払い能力はあるか」など、合理的な説明ができれば許可される可能性があります。
不許可を防ぐための対策
1. 事業計画書・説明書の作成
- 赤字や債務超過の理由を明確に説明する
- 例:開発投資が先行している、コロナ禍の一時的な影響、減価償却費の計上など。
- 今後の事業改善・黒字化の見通しを示す
- 例:新規取引先の獲得予定、コスト削減策の実施、第三者割当増資の予定など。
- 給与支払い能力の根拠を示す
- 現預金残高、資金調達計画、親会社からの支援約束など、実際に給与を支払える資金源を具体的に記載します。
2. 決算書・納税証明書等の証拠書類の提出
- 最新の決算書(損益計算書・貸借対照表)
- 納税証明書
- 営業許可証、登記事項証明書
- 資金繰り表やキャッシュフロー計画書
- (必要に応じて)親会社や投資家からの支援証明書
これらの書類を揃え、客観的なデータで「事業継続性」と「給与支払い能力」を証明することが重要です。
3. 給与水準の適正化
- 日本人従業員と同等以上の給与を設定し、その根拠を明示します。
- 最低賃金を下回らないように注意し、雇用契約書や給与規程を提出します。
4. 外部専門家の意見書活用
- 公認会計士や中小企業診断士など第三者の専門家による「経営改善計画書」や「事業継続性に関する意見書」を添付することで、説得力を高めることができます。
5. 業務内容・申請者の適格性の説明
- 申請者の学歴・職歴と業務内容の関連性を明確に記載し、専門性の高さをアピールします。
事例
ITベンチャー企業A社は、設立2年目で開発投資が先行し、2期連続で赤字決算となっていました。A社は外国人エンジニアの採用を希望し、「技術・人文知識・国際業務」ビザを申請。A社は、赤字の要因が新規サービス開発に伴う一時的なものであり、既に大手企業との契約が決まっていること、親会社からの資金援助があることを事業計画書と証拠書類で説明しました。さらに、給与支払い能力を証明するため、現預金残高証明書や親会社の支援約束書も提出。これにより、入管から事業継続性と給与支払い能力が認められ、ビザが許可されました。
まとめ
「技術・人文知識・国際業務」ビザの申請において、勤務先企業が赤字決算であっても、合理的な説明と十分な証拠資料を準備すれば、不許可を回避できる可能性があります。特に、事業計画書や資金繰り計画、外部専門家の意見書などを活用し、給与支払い能力と事業継続性を客観的に証明することが重要です。最新の法務省や出入国在留管理庁のガイドラインに基づき、制度の趣旨を理解したうえで、慎重に準備を進めましょう。