はじめに
相続人の中に長年連絡の取れない兄弟や親族がいるケースは、決して珍しくありません。
特に、相続預金の払い戻しでは、銀行から「相続人全員の同意書や署名が必要です」と言われ、手続きが止まってしまうことがあります。
この記事では、相続人の一人が行方不明の場合に、預金をどのように相続手続きしていくのか、法律上の基本的な考え方と代表的な解決手段をわかりやすく解説します。
行方不明の相続人がいると預金はどうなる?
相続預金の払い戻しは、原則として相続人全員の合意に基づく請求が必要とされており、一部の相続人だけで手続きを進めることは難しいとされています。
そのため、相続人の一人が行方不明で連絡がつかない場合には、例外的な「便宜払い」などを除き、残った相続人だけでは払い戻しを受けられないのが原則です。
また、遺産分割協議も相続人全員の参加が必要であり、行方不明者を抜いた協議は無効となるとされています。遺産分割がまとまらない以上、預金の最終的な分配も決めることができません。
初期対応:本当に「行方不明」なのかの確認
「行方不明」かどうかは感覚ではなく、戸籍や住民票などの客観的資料に基づいて確認していくことが重要です。
一般的には、戸籍謄本や戸籍の附票を取得し、現在の住所地や転居先を追いかけながら、手紙や電話などで連絡を試みます。
それでも所在が分からず、容易に戻る見込みがない状態であれば、法律上の「不在者」に該当する可能性があり、家庭裁判所への申立てを検討する段階に入ります。
不在者財産管理人を選任して預金手続きを進める方法
民法は、住所や居所を去って容易に戻る見込みのない人(不在者)の財産を守るため、「不在者財産管理人」を家庭裁判所が選任できる制度を定めています。
不在者財産管理人は、家庭裁判所の監督のもとで不在者の法定代理人として財産を管理し、必要に応じて家庭裁判所の許可を得て、遺産分割や預金の払い戻しなどの処分行為を行うことができます。
申立ては、不在者の従来の住所地を管轄する家庭裁判所に対して、利害関係人(他の相続人など)が行い、戸籍謄本や財産目録、不在の事実を示す資料などを添付して進めます。
不在者財産管理人と預金手続き
選任された不在者財産管理人は、家庭裁判所の「権限外行為許可」を得ることで、不在者に代わって遺産分割協議に参加し、相続預金の払い戻し手続きも進められるようになります。
この仕組みにより、行方不明の相続人がいても、法律上の手続きに則って預金の分け方を決め、払い戻しや名義変更を進めることが可能になります。
失踪宣告によって「死亡」とみなして相続を整理する方法
行方不明の状態が長期にわたり、生死が7年間明らかでないときは、家庭裁判所に「失踪宣告」を申し立てることができます。
失踪宣告が認められると、その行方不明者は法律上「死亡した」とみなされるため、その人を起点とした相続関係を整理し、代襲相続人がいればその者が、いなければ残りの相続人だけで遺産分割や預金の相続手続きを進めることができます。
ただし、失踪宣告は生活上・身分上の影響も大きいため、行方不明からの期間や事情、ほかの手段(不在者財産管理人など)との比較も踏まえて慎重に検討することが望ましいです。
具体的なイメージ事例
たとえば、父が亡くなり、相続人が長男・次男・長女の3人であるものの、次男が10年以上連絡不通で住所も不明になっているケースを考えてみます。
この場合、長男と長女だけで遺産分割協議書を作成しても、原則として有効な遺産分割協議とは認められないため、銀行からは相続預金の払い戻しを断られる可能性が高いといえます。
長男・長女が家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申立て、選任された管理人に権限外行為許可を得てもらい、管理人を含めて遺産分割協議を行うことで、預金の払い戻しや分配を進めるという流れが典型的です。
行方不明者がいる場合でも預金手続きをスムーズにするために
行方不明の相続人がいるからといって、安易にその人を抜いて手続きしてしまうと、後に協議が無効とされるおそれがあり、預金の分配をやり直すなどのトラブルにつながりかねません。
まずは戸籍・住民票で所在の確認と連絡の努力を尽くし、それでも容易に戻る見込みがない場合には、家庭裁判所による不在者財産管理人の選任や失踪宣告の活用を検討することが、法的に安全な対応になります。
銀行の相続手続きの書式や必要書類は金融機関ごとに異なることもあるため、裁判所の手続きとあわせて、早めに専門家へ相談しておくとスムーズに進めやすくなります。
まとめ
相続人の一人が行方不明の場合、相続預金の払い戻しは、原則として相続人全員の合意が得られないため、そのままでは手続きが進みにくくなります。
戸籍や住民票で所在を調査したうえで、容易に戻る見込みのない不在者に該当すると考えられる場合には、家庭裁判所に不在者財産管理人を選任してもらい、権限外行為許可を得て遺産分割や預金手続きを進める方法が有力です。
行方不明期間が7年以上に及び、生死が明らかでないときには、失踪宣告によって法律上「死亡」とみなして相続関係を整理することも可能であり、預金を含む遺産全体の手続きを完了させる手段の一つとなります。
具体的な状況によって最適な手続きは変わりますので、「行方不明の相続人がいて預金の相続が進まない」と感じた段階で、早めに家庭裁判所の制度や専門家のサポートを検討していただくことをおすすめします。



