はじめに
外国人が日本で就労する際、最も多く利用される在留資格の一つが「技術・人文知識・国際業務」(以下「技人国」)です。しかし、実際の業務内容が「単純労働」とみなされると、在留資格の取得や更新が認められない、あるいは不法就労と判断されるリスクがあります。この記事では、技人国ビザで単純労働と誤解されやすい業務の具体例と、その対策について解説します。
技術・人文知識・国際業務ビザの概要
技人国ビザは、理学や工学などの技術分野、法律学や経済学などの人文知識分野、通訳や翻訳などの国際業務分野で、専門的な知識や技能を活かす業務に従事する外国人のための在留資格です。申請には、大学卒業や専門学校卒業などの学歴要件、または一定の実務経験が必要です。
「単純労働」とは何か
技人国ビザでは、専門知識や技能を必要としない反復的な作業、いわゆる「単純労働」は認められていません。代表的な単純労働の例としては、以下のようなものがあります。
- 飲食店での接客や配膳
- 小売店でのレジ打ちや品出し
- 工場のライン作業
- ホテルのベッドメイキングや清掃
- 建設現場での作業員
これらは、特別な知識や技能を必要としないため、技人国ビザの対象外とされています。
業務内容が単純労働とみなされるリスク
企業が「専門性がある」と考えている業務でも、入管当局が「単純労働」と判断するケースは少なくありません。例えば、不動産営業でも、単なる物件案内や清掃、ビラ配りが中心であれば単純労働とみなされる場合があります。
また、新人研修の一環で一時的に単純作業を行わせる場合でも、その内容や期間によっては問題視されることがあります。
単純労働とみなされないための対策
1. 業務内容の明確化と専門性の証明
- 業務内容を具体的かつ詳細に書類で説明し、専門知識や技能が必要であることを明確にします。例えば、営業職であれば「市場分析」「営業戦略の立案」「契約書の作成」など、学術的素養や専門スキルが求められる業務を中心に記載します。
- 業務内容と本人の学歴・経験との関連性を示すことで、専門性を客観的に証明します。
2. 業務割合の管理
- 付随的に単純作業を行う場合でも、その割合が主たる業務を超えないように注意します。主な業務が専門的な内容であることを明確にし、単純作業はあくまで補助的なものにとどめます。
3. 事前相談と書類の工夫
- 不安な場合は、出入国在留管理庁や専門の行政書士に事前相談し、業務内容が技人国ビザに該当するか確認します。
- 申請書類には、業務内容の詳細な説明書や業務フロー図、組織図などを添付し、専門性を裏付ける資料を充実させます。
4. 他の在留資格の検討
- どうしても単純労働が避けられない場合は、「特定技能」や「特定活動」など、他の在留資格の活用を検討します。特定技能ビザは、単純労働を含む特定の業種で働くことが認められています。
事例
Aさん(中国出身、27歳)は、大学で経済学を専攻し、日本の貿易会社に就職しました。主な業務は海外取引先との交渉や契約書作成、マーケティング戦略の立案ですが、入社当初は倉庫での商品の検品や発送作業も一部担当していました。
会社は、Aさんの主たる業務が専門性の高いものであることを説明するため、業務内容の詳細な内訳や、Aさんの経歴と業務内容の関連性を申請書類に明記しました。また、単純作業は新人研修の一環であり、全体の業務のごく一部であることを強調しました。
結果として、Aさんの技人国ビザは無事に許可されました。
まとめ
技術・人文知識・国際業務ビザで外国人を雇用する際は、業務内容が単純労働とみなされないよう、専門性の証明と業務割合の管理が重要です。業務内容の説明や書類作成に不安がある場合は、専門の行政書士に相談することをおすすめします。正確な情報と適切な手続きを行うことで、在留資格の取得・維持を円滑に進めることができます。