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家族信託を組んだ後の管理報告はどうする?受託者の責任と記録の残し方

家族信託のアイキャッチ画像

家族信託(民事信託)は、高齢の親の財産管理や二次相続対策に有効な手段として広く利用されるようになってきましたが、「契約を結んだ後、受託者はどこまで管理報告をしなければいけないのか」「どんな帳簿や資料を残せばよいのか」という点は誤解が多い部分です。
信託契約は裁判所の監督を受ける成年後見制度とは仕組みが異なるため、制度上の義務と、トラブル防止のために実務上しておくべき管理・報告を分けて理解することが大切です。

家族信託では、親(委託者)が保有する不動産や預金などを、子どもなどの受託者名義に移し、受託者が契約で定められた目的のために財産を管理・処分します。
受託者は、信託法上「善良な管理者の注意義務」や「忠実義務」などを負い、受益者の利益のために信託事務を処理しなければならないとされています(信託法20条、30条等)。

家族信託においても、受託者は自分の財産と信託財産を分けて管理する義務(分別管理義務)や、信託の本旨に従って行動する義務を負っており、これに違反して損害が生じた場合には損失の填補責任を負う可能性があります。
そのため、日常の管理や支出の根拠が客観的にわかるよう、記録と報告の仕組みをあらかじめ設計しておくことが重要です。

信託法では、委託者または受益者が求めたときは、受託者は信託事務の処理状況を報告しなければならない旨が定められています(信託法36条)。
また、信託財産に関する帳簿や書類を作成し、一定期間保存し、受益者から閲覧を求められた場合には応じる義務も定められています(信託法37条、38条)。

ここで重要なのは、家族信託の場合、家庭裁判所など公的機関への定期的な報告義務はなく、報告の相手はあくまで委託者・受益者であるという点です。
もっとも、契約内容によっては、受託者に対し「毎年1回、決算書類を作成して受益者に交付する」など、より具体的・厳格な報告方法を定めることも可能です。

信託法上、受託者は信託財産に関する帳簿・書類を作成し、一定期間保存する義務があります。
実務上、家族信託の受託者が最低限用意しておきたい書類のイメージは次のとおりです。

  • 信託財産の収支と残高が把握できる資料(現金出納帳、信託専用口座の通帳コピーなど)
  • 信託不動産の賃料収入・修繕費等がわかる資料(賃貸借契約書、領収書、請求書、見積書など)
  • 年1回程度作成する「貸借対照表」「損益計算書」に相当するまとめ資料(形式は家族信託向けに簡略化しても構いません)

これらの書類は、信託行為や法令に別段の定めがない限り、原則として10年間保存すべきとされています。
保存方法としては、紙ベースのファイルとクラウド上のデータを併用し、誰が見ても分かる形で整理しておくと、将来の相続人間の紛争防止にも役立ちます。

家族信託は、親族間での信頼関係を前提とした制度ですが、「お金の話」が絡むため、情報共有が不十分だと「受託者が勝手に使っているのではないか」という疑念が生じやすい面があります。
そこで、信託契約書の段階で、受託者の報告方法を次のように具体的に定めておくと安心です。

  • 年1回、決算報告書(収支の一覧と財産の残高)を受益者全員にメールまたは郵送で送付する
  • 10万円を超える支出や不動産の売却など重要な処分行為は、事前に受益者の同意を得ることとし、書面またはメールで記録を残す
  • 預金通帳や帳簿について、受益者が希望したときはいつでも閲覧に応じる

ある家族の例として、長女が受託者となり、他の兄弟姉妹が受益者という家族信託では、年1回オンラインで収支報告会を開き、画面共有で通帳や簡易的な損益計算書を見せ合うことで、不信感が生じにくくなったというケースもあります(一般的な運用例を再構成したもので、特定の事務所の実績ではありません)。
このように、法律上の最低限の義務にとどまらず、家族の事情に合わせて「見える化」の工夫を加えることが、受託者を守ることにもつながります。

成年後見制度を利用した場合、後見人は家庭裁判所に対して、財産目録や収支状況などの報告を定期的に行う必要があります。
一方、家族信託では裁判所に対する報告義務はなく、あくまで契約と信託法に基づく帳簿作成・報告義務を負うにとどまるため、柔軟である反面、チェック機能が弱いという側面もあります。

そのため、高齢者の財産管理を目的とする家族信託では、受託者の暴走や不正を防ぐために、「受益者代理人」や「信託監督人」といった第三者によるチェック機能を設けることも検討されます。
これらの仕組みを入れておくことで、受託者が作成した帳簿・報告内容について、専門家や信頼できる親族が継続的に確認できるようになります。

家族信託の受託者は、法的に「善管注意義務」や「忠実義務」を負い、委託者・受益者から求められたときには信託事務の処理状況を報告しなければならず、信託財産に関する帳簿・書類を作成・保存する義務があります。
裁判所への定期報告こそ不要ですが、少なくとも年1回程度は収支や財産状況を整理した資料を作成し、受益者へ分かりやすく報告する体制を整えておくことが、トラブル防止と信頼関係の維持につながります。

どの範囲までの報告・記録が望ましいかは、ご家族の状況や信託の目的によって異なりますので、実際に家族信託を検討される際には、信託契約の設計段階から専門家に相談しながら、無理なく続けられる管理・報告ルールを決めておくことが大切です。

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