はじめに
在留資格「技能」で働いている外国人の方から、「日本語があまり話せないのですが、それでもビザ(在留期間)の更新はできますか?」というご相談を受けることがあります。日本語能力試験(JLPT)の資格を持っていない方や、日常会話もまだ不自由という方にとっては、とても気になるポイントだと思います。本記事では、公的機関の情報を踏まえながら、「技能」ビザにおける日本語能力の位置づけと、職務内容との関係について分かりやすく解説します。
「技能」とはどのような在留資格か
出入国在留管理庁の「在留資格から探す」によると、「技能」は、産業上の特殊な分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する外国人のための就労系在留資格の一つです。 典型的な例として、外国料理の料理人、ソムリエ、スポーツ指導者、貴金属や宝石・革製品などの加工職人、航空機の操縦士などが挙げられます。
就労系在留資格の中でも、「(技術・人文知識・国際業務)」などと並び、専門的・技術的な分野に位置づけられていることが分かります。
「技能」ビザと日本語能力の関係
制度上、「技能」に明確な日本語試験要件はあるか
現在、「技能」の在留資格については、出入国在留管理庁や外務省の案内において、日本語能力試験の何級以上でなければならないといった一律の日本語試験要件は明記されていません。 同じ就労系であっても、「特定技能」については、日本語試験(JFT-BasicやJLPT N4など)の合格が要件とされているのに対し、「技能」ではそのような明文要件は設けられていない点が特徴です。
一方で、「技能」は原則として日本の事業所で就労する在留資格であり、実務上は、日本人の同僚や顧客とコミュニケーションを取りながら働くことが想定されています。したがって、法律上の明確な試験要件がなくても、「業務を遂行するのに必要な範囲」で日本語能力が求められるのが実務的な運用といえます。
「特定技能」との違いから見える日本語の位置づけ
「特定技能」では、制度説明資料やパンフレットにおいて、「日常生活や業務に必要な日本語能力を試験等で確認する」と明確に示されています。 これに対し、「技能」では、日本語能力は直接的な試験要件というより、「雇用契約に基づき、適切に業務を行えるかどうか」という観点の一部として審査されると考えるのが自然です。
更新審査で見られるポイントと日本語
更新審査の基本的なチェックポイント
在留期間更新許可の審査では、在留資格ごとの活動内容に適合した就労が継続して行われているか、活動の継続性・安定性があるかといった点が重視されます。 「技能」の場合、具体的には次のようなポイントが中心になります。
- 実際の職務内容が、「技能」に該当する熟練技能分野に属しているか
- 雇用契約(勤務時間・給与など)が適正か
- 収入・生活状況に問題がないか
- 法令違反(入管法・労働法令・税金・社会保険など)がないか
これらのポイントの中に「日本語能力」という項目が単独で挙がっているわけではありませんが、業務内容によっては、日本語能力の不足が「本来の在留資格に該当する活動をしていない」と評価されるリスクにつながるケースがあります。
日本語能力が問題になりやすいケース・なりにくいケース
例えば、外国料理レストランの調理師として厨房で主に調理業務に従事している場合、基本的な職務は料理の調理・仕込みなどであり、日本語での高度な文書作成や営業活動が求められるわけではありません。このようなケースでは、同僚との簡単なコミュニケーションや安全確認ができる程度の日本語があれば、低い日本語能力だけを理由に更新不許可になる可能性は高くないと考えられます。
一方で、求人票や実際の業務内容に「日本人顧客への接客」「日本語でのクレーム対応」「仕入先との電話・メール交渉」などを含む場合、ほとんど日本語が分からないまま勤務していると、「実態として、その人でなければできない熟練技能を活かした業務をしているのか」という点について疑問を持たれる可能性があります。このような場合には、日本語能力の不足が、結果として「活動内容の不適合」の問題として現れることがあります。
日本語能力が低い方の更新リスクと対策
典型的な相談イメージ
例として、30代の外国人料理人Aさん(中国料理の調理師)を想定してみます。Aさんは在留資格「技能」で3年の在留期間を得て、日本の中華料理店で働いています。JLPTは受験したことがなく、日常会話も簡単な言葉なら理解できる程度で、日本語の読み書きはほとんどできません。
勤務先では、仕込みや調理を中心に担当し、注文はホールスタッフが受け、厨房には他の外国人スタッフもいるため、職場では母語と簡単な日本語を交えて仕事をしています。雇用契約書もきちんと作成されており、給与水準も同業他社と比較して適正です。このようなケースでは、職務内容が「外国料理の料理人」として明確であり、熟練した技能の提供が中心ですから、「日本語能力が低い」こと自体が直ちに更新不許可の理由になるとは考えにくいでしょう。
ただし、同じAさんであっても、将来的に店長候補として日本人アルバイトの管理や仕入先との交渉を任されるようなポジションに移る場合には、日本語能力の不足が業務遂行上の支障として問題視される可能性が出てきます。その場合は、職務内容の実態に合った在留資格であるかどうかを慎重に確認する必要があります。
更新時に説明・準備しておきたいポイント
日本語能力が高くない方が「技能」ビザの更新を行う際には、次のような点を意識しておくとよいでしょう。
- 雇用契約書や職務内容説明書で、「熟練した技能が必要な業務」であることを明確にしておく
- 実際の勤務実績(シフト表・給与明細・在職証明書など)を整理し、継続性・安定性を示せるようにする
- 日本語以外のコミュニケーション手段(社内に通訳がいる、マニュアルが多言語対応しているなど)がある場合は、その体制も説明できるようにしておく
- 将来的に業務内容が変わる予定がある場合は、在留資格の変更が必要かどうかも含めて専門家に早めに相談する
これらを準備しておくことで、日本語能力が低くても、「技能」の在留資格に適した活動を安定して行っていることを説明しやすくなります。
日本語能力をどの程度まで高めるべきか
「日常会話+業務に必要な表現」が目標
公的資料では「技能」について具体的な日本語能力レベルは示されていませんが、同じく就労系の「特定技能」では、「日常生活・業務に支障がない程度」の日本語能力が求められるとされています。 この点を参考にすると、「技能」においても、少なくとも以下のようなレベルを目標にすると安心です。
- 職場での簡単な指示(「これを切ってください」「○○を持ってきてください」など)を聞き取れる
- 基本的な安全確認の用語が理解できる
- 自分の体調や勤務に関する簡単な報告(「今日はお腹が痛いです」「残業はできます」など)ができる
JLPTの合格証が必須というわけではありませんが、N4〜N3レベルを目指して学習を進めていくと、職場での信頼も得やすくなり、結果として更新審査の際の印象も良くなると考えられます。
雇用側の受入体制も重要
また、外国人材の受入に関する政府資料では、受入企業側に対しても、外国人が日本での生活や業務を円滑に行えるように支援する体制の整備が求められています。 たとえば、業務マニュアルの多言語化、社内連絡の平易な日本語化、日本語研修の提供などです。日本語能力は、本人の努力だけでなく、企業側のサポートも含めて総合的に評価される要素と言えます。
まとめ
在留資格「技能」には、「特定技能」のように日本語試験の合格を明示的に要件とする規定はありませんが、実務上は「その人が担当する業務を適切に遂行できるだけの日本語能力」が求められます。 特に、外国料理の調理師や職人など、技能そのものが主役となる職種では、日本語が流暢でなくても、職務内容や雇用条件が適切であれば更新が認められる可能性は十分あります。
一方で、日本人顧客への接客やクレーム対応、日本語での交渉などが職務内容に含まれる場合、日本語能力の不足は「技能」に適した活動をしていないと判断されるリスクにつながることがあります。そのため、更新申請前には、自分の実際の職務内容が「技能」に該当しているか、日本語能力と業務内容のバランスに問題がないかを確認し、必要に応じて専門家に相談することが重要です。
日本語がまだ得意でない方も、日常会話と業務に必要な表現を少しずつ身につけながら、雇用主と協力して適切な受入体制を整えていけば、「技能」ビザの更新リスクを大きく下げることができます。



