はじめに
相続手続や家系の確認のために戸籍を出生までさかのぼると、「現在は存在しない市町村名」や見慣れない地名が出てくることがあります。「この本籍地は今のどこに当たるのか」「次にどの役所へ戸籍を請求すればよいのか」と迷われる方も少なくありません。
古い地名が出てくる主な理由は、転籍、市町村合併、町名変更、戸籍の改製などです。戸籍はその時点の身分関係を記録する大切な公文書であり、古い戸籍ほど当時の地名や制度が反映されています。この記事では、戸籍に古い地名が記載される理由と、相続などで戸籍をさかのぼる際の調べ方を解説します。
戸籍に古い地名が出てくる主な理由
転籍によって本籍地が変わるため
転籍とは、本籍を別の市区町村や住所地へ移す届出です。住民票の住所変更とは異なり、引っ越しをしても本籍は自動的には変わりません。一方、転籍届を提出すると、新しい本籍地に新たな戸籍が編製され、従前の戸籍は除籍または改製原戸籍として保管されます。
そのため、現在の戸籍から前の戸籍をたどると、祖父母世代が暮らしていた地域、婚姻前の本籍地、戦前・戦後の旧町村名などが現れることがあります。戸籍を出生時まで集める作業では、現在の本籍地だけでなく、転籍前の本籍地を順番に確認することが重要です。
市町村合併や町名変更があったため
全国では、長年にわたり市町村合併、編入、分離、町名変更などが行われてきました。たとえば、かつては「○○郡△△村」であった場所が、合併後は「□□市△△町」となっていることがあります。
戸籍の身分事項欄には、出生、婚姻、死亡、転籍などの届出が受理された当時の情報が記載されます。そのため、昔の地名がそのまま残る場合があります。これは記載ミスではなく、その時点の出来事を示す記録として自然なものです。
なお、旧市町村が合併によりなくなっていても、戸籍そのものが消えるわけではありません。通常は、合併後にその事務を引き継いだ市区町村が戸籍を保管・管理しています。
戸籍の改製により古い戸籍が残るため
戸籍は法令改正やコンピュータ化などに伴い、様式が作り替えられることがあります。これを戸籍の「改製」といいます。改製前の戸籍は改製原戸籍として保管され、相続人の確定や親族関係の確認では必要になることがあります。
新しい戸籍には、すでに除籍された人や過去の身分事項の一部が記載されないことがあります。そのため、被相続人の出生から死亡までの経過を確認するには、現在戸籍だけでなく、除籍謄本や改製原戸籍も取得して確認する必要があります。
古い本籍地を調べる手順
まず、手元にある最も新しい戸籍全部事項証明書を確認します。戸籍の冒頭にある本籍欄だけでなく、身分事項欄や戸籍事項欄にも注目してください。「○○市から転籍」「△△町において届出」などの記載が、前の本籍地を知る手掛かりになります。
次に、転籍前の本籍地が判明したら、その地名を現在の自治体名に置き換えます。旧町村名だけでは請求先が分かりにくい場合があるため、「旧地名+合併」「旧町村名+現在の市」などで確認するとよいでしょう。合併後の市区町村の戸籍担当窓口に問い合わせる方法も有効です。
請求時には、単に「戸籍謄本をください」と伝えるだけでなく、「相続手続のため、出生から死亡まで連続する戸籍を確認したい」「前の戸籍として除籍謄本・改製原戸籍が必要か確認したい」と目的を具体的に伝えると、確認が進めやすくなります。
広域交付を利用する際の注意点
現在は、戸籍証明書等の広域交付により、本籍地以外の市区町村窓口でも、戸籍全部事項証明書、除籍全部事項証明書、改製原戸籍謄本などを請求できる場合があります。遠方の本籍地が複数ある相続手続では、窓口を回る負担を減らせる可能性があります。
ただし、広域交付には注意点があります。請求できるのは本人、配偶者、直系尊属、直系卑属などに限られ、兄弟姉妹の戸籍は対象になりません。また、原則として請求者本人が市区町村の戸籍担当窓口へ出向く必要があり、代理人請求や郵送請求は利用できません。戸籍の附票、戸籍抄本、電子化されていない一部の古い戸籍なども対象外となることがあります。
古い手書き戸籍や広域交付の対象外となる戸籍が必要な場合は、保管先となる本籍地の市区町村へ、郵送または窓口で個別に請求します。請求先や必要書類は自治体によって取扱いが異なるため、事前に確認しておくと安心です。
相続で戸籍を集める際のポイント
相続では、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍により、誰が相続人であるかを確認します。途中に転籍や婚姻、離婚、養子縁組、認知などがある場合、必要な戸籍が複数の自治体に分かれることもあります。
たとえば、現在は千葉市に本籍がある方でも、出生時は旧町村、婚姻時に東京都内へ転籍し、その後に千葉市へ転籍している場合があります。このようなケースでは、現在戸籍から順に前の戸籍を確認し、転籍前の本籍地を一つずつたどります。古い地名を現在の自治体名へ読み替えながら進めることが、戸籍収集の基本です。
戸籍に記載された地名と、現在の地図上の地名が一致しないからといって、すぐに別の場所と判断してはいけません。市町村合併や町名変更の経緯を確認し、同一地域であることを丁寧に確かめることが大切です。
まとめ
戸籍をさかのぼった際に古い地名が出てくるのは、転籍、市町村合併、町名変更、戸籍改製などが背景にあるためです。古い地名は、過去の本籍地や身分事項をたどるための重要な手掛かりになります。
相続手続では、現在の戸籍だけで判断せず、除籍謄本や改製原戸籍を含めて出生時まで連続して確認することが欠かせません。旧市町村名が分からない場合でも、合併後の自治体を確認し、必要に応じて戸籍担当窓口へ問い合わせながら進めましょう。戸籍のつながりを正確に把握することが、相続人の確定や円滑な遺産相続手続につながります。



